年別アーカイブ: 2011年

2011年スプリングスクール報告

8月8日~11日、震災により延期されていたスプリングスクールが野辺山キャンパスで開催されました。
大学理系学部に在学する文学研究に意欲を持つ学生19名が、以下の日程で行われた集中講義と講演会・見学会に参加し、最先端の天文学に触れ、交流を深める場となりました。

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Masses of Supermassive Black Holes in ULIRG estimated by effective radius

【日時】6月29日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】大井渚(総研大 D3・ハワイ、指導教員 : 有本 信雄 & 今西 昌俊)
【タイトル】
Masses of Supermassive Black Holes in ULIRG estimated by effective radius
【アブストラクト】
活動銀河核(AGN)の中心部に存在する超巨大ブラックホール(SMBH)と毋銀河の性質(速度分散・光度・有効半径)には正の相関関係があることが観測的に分かっており、AGNと銀河が互いに影響を与えながら進化してきた(共進化)ことを示唆している。
しかしこの関係が、いつどのようにして出来たのかは未だ明らかになっていない。
超高光度赤外線銀河(ULIRG)は、 AGN の中で最も明るい (Lopt>10^12Lsun) クェーサー(QSO) と同程度のエネルギーを赤外線領域で放っている天体であり、QSO に匹敵するエネルギー源が塵に隠されて存在することを意味する。またULIRGは塵に富む銀河の合体末期に選択的に見つかっていることから、銀河が衝突合体することで銀河・SMBHの成長が共に促進され、ULIRGの段階後、QSO的AGNに進化するという理論がある。
一方で、ULIRGのエネルギー源は星生成であり、QSOとは無関係で、QSOには進化しないとする主張もあり、その状況は混沌としている。
我々はこの問題を解決すべく、ULIRGの中心に存在するだろうSMBHの質量(MBH)を見積もる。
ULIRGがQSOに進化するならば、ULIRGのMBHはQSOのものに匹敵するはずである。
ULIRGは中心に塵を大量に持つため、従来用いられている可視光を用いてガスの輝線幅からMBHを測ることが不可能であった。
そこで、我々はMBHと相関がある銀河の有効半径を塵の影響の少ない赤外線の撮像データからMBHを見積もる。
本講演では、南アフリカにあるのIRSF1.4-m望遠鏡で観測した50天体のULIRGに対して見積もったMBHとそこから示唆されるQSOとの進化関係について議論する。

国立天文台公開講座/天文科学専攻入試ガイダンス開催

国立天文台の特別公開講座と物理科学研究科天文科学専攻の入試ガイダンスが、関西地方(メルパルク京都)で5月21日に、関東地方(国立天文台)で5月28日に開催されました。関東では37名(昨年18名)、関西では13名(昨年9名)の方にご参加いただき、天文学および天文科学専攻への関心と興味を確かめる場となりました。また学生だけでなく社会人の方も参加され、天文学の世界を観る視線が研究者や学生の領域にとどまらず広く伝わっていることと、これよりもっと拡がっていく可能性も伺わせました。
公開講座では「革新する天文学」をテーマに電波天文学と光赤外線天文学、理論天文学の今までの進歩、そして、これからの発展とその可能性について、それぞれの分野の現場に立っている研究者の方々(川口則幸教授、家正則教授、中村文隆准教授、齋藤正雄助教、原弘久准教授、郷田直輝教授)の講演が行われました。講演後の質疑応答の時には講演内容についてはもちろん、時間のために省略された内容についての質問などもあり、受講者にも講演者にも意義のある時間となりました。
関東で入試ガイダンス終了後に行われた教員および院生との相談会(関西では教員との相談会のみ)では、天文科学専攻への興味を示す多くの学生さんの積極的な参加で、学問そのものや進路についての相談、天文学への興味という共通点を持つ人と人としてのコミュニケーションが活発に行われ、とても有意義な相談と交流の場になりました。
110528a.jpg講演会の様子
110528b.jpg公開講座の質疑時間では、受講者から色々な質問を受けた
110528c.jpg相談会では各研究室の机を置き、参加者は自由に興味のある研究テーマの所に行って説明を聞いた
110528d.jpgハワイ観測所からはSkypeを用いて学生の相談に対応した

Cosmic history of Core-collapse Supernovae and Supernova Relic Neutrinos(重力崩壊型超新星爆発にみる宇宙史と残存超新星起源ニュートリノ)

【日時】6月22日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】鈴木 重太朗(総研大 D3・三鷹、指導教員 : 梶野 敏貴)
【タイトル】Cosmic history of Core-collapse Supernovae and Supernova Relic Neutrinos(重力崩壊型超新星爆発にみる宇宙史と残存超新星起源ニュートリノ)
 本研究は、超新星背景ニュートリノを観測手段として用い、その検出率を予測する際の理論的な仮定の妥当性を定量的に評価することにより、ニュートリノ振動パラメータ及び超新星爆発時のニュートリノ温度を従来より厳密に制限することを目的とする。また、大質量星形成の時間進化をより詳細に知ることを併せて目的とする。
 重力崩壊型超新星爆発の際には、多量のニュートリノが発生して重力的束縛エネルギーのほとんどを運び去ると考えられているが、ニュートリノは他の物質との反応性が乏しいため、過去の超新星爆発の際に発生したニュートリノは背景ニュートリノ(以下、SRNと略記)として現在も宇宙空間を飛び交っていると考えられている。但し、そのエネルギースペクトルを精度よく予測するためにはいくつかの不定性が障害となる。
これらの不定性のうちの主なものは超新星爆発時のニュートリノ温度の不定性であり、また、これまであまり着目されていなかったfailedSN(爆発後にブラックホールを残す超新星爆発)やガンマ線バースト(GRB)及びO-Ne-Mg核超新星爆発からの寄与についても検討の余地がある。
 本研究では、SRNエネルギースペクトルを決定する各要素がどのような不定性をどの程度有するか、及びそれらを減ずる方法を紹介し、これを踏まえて現在計画中の106 t級水チェレンコフ型検出装置において得られるエネルギースペクトルを予測する。そして、さらにこれを踏まえて、ニュートリノ振動パラメータ及び超新星ニュートリノ温度へ制限を加えうる可能性を議論する。

活動銀河ジェットM87における超高エネルギーγ線フレア領域のVLBI観測

【日時】6月8日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】秦 和弘(総研大 D3・三鷹、指導教員 : 川口 則幸)
【タイトル】活動銀河ジェットM87における超高エネルギーγ線フレア領域のVLBI観測
アブストラクト
活動銀河中心核(AGN)に付随する相対論的ジェットではしばしば電波~X線に渡り強い非熱的放射が観測される。このうち幾つかのAGNジェットではテラ電子ボルト(TeV)に至る超高エネルギー(Very-High-Energy:VHE)γ線が観測されており、相対論的ジェットが卓越した粒子加速の現場となっていることを示唆している。
しかしながらジェットのどこで、如何にしてこれらの現象がもたらされるのか、その詳細は未だ明らかでなく、宇宙物理学における重要課題の1つとして残されている。
この問題に切り込む有力なアプローチは、VHE観測と同期して高分解能VLBI観測を行うことである。
おとめ座銀河団の中心部に位置する電波銀河M87は最近傍のVHEγ線源である。
その近さゆえジェットが他のγ線AGNに比べ圧倒的な空間スケールで分解されており、γ線放射の起源を紐解く上で鍵となる天体である。
これまで2005年、2008年に大規模なVHEフレアが観測されており、フレアに同期して行われたVLBI観測はγ線放射領域の特定および物理状態に極めて重要な制限を与えている。
2010年4月、M87で再び大規模なVHEγ線フレアが報告された。
我々はこのフレアとほぼ完全に同期してVLBAによる高分解能観測に成功した。
そこで今回は2010年VHEフレア時のVLBIスケールの様子について報告し、本観測から示唆されるフレアの発生場所、物理状態等について議論する。