月別アーカイブ: 2009年10月

大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッドN体シミュレーションコードの開発

【日時】10月28日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッドN体シミュレーションコードの開発
【発表者(敬称略)】押野翔一 (総研大 D2・三鷹、指導教員 牧野淳一郎)
現在、標準的な惑星形成論としてコア集積モデルが考えられている。このモデルは主に4つの段階を経て惑星が形成されると考えられている。最初の段階では原始星周囲にガスとダストからなる円盤が形成される。次にダストが赤道面に落下しキロメートルサイズの微惑星ができる。その次の段階では微惑星どうしが衝突合体しより大きい原始惑星へと成長する。最後の段階では原始惑星どうしの衝突やガス集積がおこり惑星になったとされている。
このうちの微惑星衝突段階は重力が支配的でその進化の研究にはN体計算が用いられている。しかし、先行研究で行われているのは粒子数が数万体、1粒子当たりの質量が 10^{23} g 程度のミュレーションであるが、初期に形成される微惑星の質量は 10^{19}-10^{21} g と考えられておりこの質量の微惑星の振る舞いについては良く分かっていない。
そこで本研究では粒子数を増やし高い質量分解能でのシミュレーションを行なえる計算コードを開発し、これらの未解決の問題を解決することを目標とする。大粒子数を扱うには近似計算であるツリー法を使うと計算量を減らせるが、微惑星衝突を精度良く計算したいのでここでは使用する時間刻みを短くする必要がある。
そこで本研究では近接遭遇を取り出し、異なる計算法を用いることで精度と計算速度を両立させる。本発表では今回開発したコードのテスト計算の結果と今後の展望について述べる。

金属欠乏星スペクトルの徹底解析 -修論予告編-

【日時】10月21日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】金属欠乏星スペクトルの徹底解析 -修論予告編-
【発表者(敬称略)】伊藤紘子 (総研大 M2・三鷹、指導教員 青木和光)
ビッグバン直後の宇宙には水素やヘリウムなどの軽元素しか存在しなかったが、その後生まれた星々によってさまざまな重元素が作られ、時間とともに重元素量が増えて現在のような宇宙が形成された。
この進化過程は「宇宙の化学進化」と呼ばれるが、特に宇宙初期でどのように進化が進んだのか、また、そのきっかけとなる宇宙の第一世代星がどのような星だったのかはまだ明らかにされていない。
このような問題にアプローチする手段として、我々は「金属欠乏星」の化学組成を調べて手がかりを得ようとしている。
金属欠乏星とはその名のとおり、太陽に比べて金属量(鉄の量を指標とする)が極端に少ない星である。まだ重元素が少なかった宇宙初期に誕生し、現在も大気中に宇宙初期の化学組成を保持していると考えられる。
我々はすばる望遠鏡の可視高分散分光器HDS を用いて、[Fe/H]=-3.7(鉄が太陽の5千分の一しかない)の9等星BD+44$^\circ$493を見出し、炭素過剰の原因として第一世代星の超新星爆発が最も有力であること、ベリリウム組成が非常に低いこと、などを明らかにした。(Ito et al. 2009, ApJL, 698, L37)
今後、この星のスペクトルのさらに徹底した解析を行い、修士論文にまとめる予定である。今回のコロキウムでは、その予告編として、これから取り組む課題について説明する。

原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション

【日時】10月14日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション
【発表者(敬称略)】富田 賢吾 (総研大 D1・三鷹、指導教員 富阪 幸治)
星形成過程はALMAなどの次世代の大型観測計画の重要なターゲットの一つであり、観測と比較できるような精密なモデルの構築が強く要請されている分野である。星形成は非常に大きなスケールの変化を伴う過程であり、また重力・磁場・輻射などの物理過程が複雑に絡み合う現象である。この問題に取り組むため我々は多重格子、自己重力、MHD、そして新たに開発した流束制限拡散近似に基づく輻射輸送計算を取り入れたシミュレーションコードにより研究を進めている。
本発表では輻射磁気流体シミュレーションによる原始星形成過程の初期段階であるファーストコアの形成・進化計算の結果について報告する。輻射流体計算によりこれまでのバロトロピック近似によるシミュレーションよりも現実的にガスの熱的進化を取り扱うことができる。これまでで、典型的な回転と磁場を持つ分子雲コアを初期条件として、中心温度が1500K、磁場によって加速されたアウトフローがおよそ100AUに達するまで計算を進めることができた。バロトロピック近似による計算結果と比べると、ファーストコアやアウトフローの進化について定性的に大きな影響はないものの、コアの寿命やサイズなどに定量的な差異が現れることがわかった。特に (1)ファーストコアの外層は衝撃波と輻射による加熱の結果高エントロピーになる (2)ファーストコア円盤の中心面付近のエントロピーは初期の回転と角運動量輸送効率に依存し、回転の効果が強いほど低エントロピーになる という違いを見出した。前者はファーストコアの熱放射或いは分子輝線による観測的性質を予測したり、原始星形成過程における化学進化を調べたりする際に重要となる。一方後者は、原始星形成過程における分裂・連星系形成確率に影響を与える可能性がある。

Kinematics and Environments of starburst ring in NGC1097

【日時】10月7日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】Kinematics and Environments of starburst ring in NGC1097
【発表者(敬称略)】大井 渚 (総研大 D1・三鷹、指導教員 今西昌俊)
近年の研究から、大多数の銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在することがわかってきているが、その中のわずかな銀河は活動銀河核(AGN)を含んでいる。
AGNは宇宙空間において最も活動的な天体の一つであり、そのエネルギー源は、中心にある大質量の超巨大ブラックホールによる重力解放エネルギーであると考えられている。
しかし何故AGNを持つものと持たないものが存在するのか、またAGNから放射される膨大なるエネルギーをまかなう程の膨大なガスやダストを超巨大ブラックホールに効率的に落とし込むメカニズムについては未だ未解決問題として残されている。
NGC1097は近傍セイファート銀河(中心にAGNを持つ、近傍銀河で最も数の多い種族)の一つであり(14.5Mpc)、広輝線が観測されることから、Seyfert 1と分類されている。
その中心領域1kpcには、ガスやダストで形成されたring状の構造(starburst ring)が存在することが知られている。
また中心領域には高密度のガス($n_{H_2}>10^4{\rm cm}^{-2}$)が存在していることが、HCN(J=1-0), CO(J=1-0), CO(J=2-1)などの輝線による研究からわかってきた。
これほどの高密度ガスは、これまでSeyfert 2銀河でしか観測されておらず、AGNを取り巻くガス/ダストのドーナツ状の構造(トーラス)を高傾斜角から見込んでいる為だと考えられていたが、NGC1097はSeyfert 1銀河で初めて高密度ガスが見つかった天体である。
それ故、circumnuclear torusの候補と考えられるNGC1097のstarburst ringを調べることによって、AGNの燃料となるガスやダストの運動の状態やその環境を理解することができると考える。
そこで我々はハワイ島マウナケア山頂にあるSubmillimeter Array (SMA)によるCO(J=3-2)輝線の高空間分解能のデータを用いて、このstarburst ring内のガスの運動を調べ、また先行研究のCO(J=1-0), CO(J=2-1)のデータと比較することで、starburst ringの物理的状態を調べた。
本研究は7/1 – 8/31の期間に台湾の中央研究院(ASIAA)で行われたsummer student program内で行った。
本発表では、NGC1097のCO(J=3-2)の結果を報告すると共に、本プログラムの紹介も行う。