原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション

【日時】10月14日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション
【発表者(敬称略)】富田 賢吾 (総研大 D1・三鷹、指導教員 富阪 幸治)
星形成過程はALMAなどの次世代の大型観測計画の重要なターゲットの一つであり、観測と比較できるような精密なモデルの構築が強く要請されている分野である。星形成は非常に大きなスケールの変化を伴う過程であり、また重力・磁場・輻射などの物理過程が複雑に絡み合う現象である。この問題に取り組むため我々は多重格子、自己重力、MHD、そして新たに開発した流束制限拡散近似に基づく輻射輸送計算を取り入れたシミュレーションコードにより研究を進めている。
本発表では輻射磁気流体シミュレーションによる原始星形成過程の初期段階であるファーストコアの形成・進化計算の結果について報告する。輻射流体計算によりこれまでのバロトロピック近似によるシミュレーションよりも現実的にガスの熱的進化を取り扱うことができる。これまでで、典型的な回転と磁場を持つ分子雲コアを初期条件として、中心温度が1500K、磁場によって加速されたアウトフローがおよそ100AUに達するまで計算を進めることができた。バロトロピック近似による計算結果と比べると、ファーストコアやアウトフローの進化について定性的に大きな影響はないものの、コアの寿命やサイズなどに定量的な差異が現れることがわかった。特に (1)ファーストコアの外層は衝撃波と輻射による加熱の結果高エントロピーになる (2)ファーストコア円盤の中心面付近のエントロピーは初期の回転と角運動量輸送効率に依存し、回転の効果が強いほど低エントロピーになる という違いを見出した。前者はファーストコアの熱放射或いは分子輝線による観測的性質を予測したり、原始星形成過程における化学進化を調べたりする際に重要となる。一方後者は、原始星形成過程における分裂・連星系形成確率に影響を与える可能性がある。