【日時】11月18日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】星形成領域におけるAKARI赤外線観測(3)
【発表者(敬称略)】佐藤 八重子 (総研大 D2・野辺山、指導教員 田村 元秀)
2006年に打ち上げられたAKARI衛星では、多数の星形成領域の観測を行なってきた。我々は、赤外線カメラIRCを用いて、約200視野の星形成領域の観測を行ない、その解析を進めている。これらの中から、星形成過程における個々の星周構造を研究していくために、星のクラスターがあり、重い星を含まない領域について、統計的な議論を行なって行く予定である。
O型星のような重い星を含まない中質量星形成領域では、原始星の進化は比較的遅いため、また大質量星による影響がないため、星周構造が残りやすいと考えられる。
今回は、このうち星形成領域GGD12-15についての新たな解析結果とSerpens領域についての比較を議論する。
GGD12-15領域は約1kpcにある中質量星形成領域で、HⅡ領域や水メーザー、COアウトフロー、多数の近赤外線源や電波源の存在が確認されている星形成活動が活発な領域である。
Serpensは260pcという近距離にある低質量星形成領域として知られる有名な星形成サイトで、class0/I天体を含むような若いクラスターが存在しており、多くの研究がなされてきた。
近赤外線(3,4micron)・中間赤外線(7,11micron)のデータを用いて、星形成領域GGD12ー15において解析を行なった。
この天体は、これまでにIRSF/SIRIUSでの観測・解析を行ない、議論してきた。その結果もふまえ、2色図やSEDなどから得られる星周構造の有無についてやこの領域に属する若い天体について分類・議論していく。
「コロキウム」カテゴリーアーカイブ
M型矮星のインド・GMRTでの観測結果について
【日時】11月11日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】M型矮星のインド・GMRTでの観測結果について
【発表者(敬称略)】小池 一隆 (総研大 D2・野辺山、指導教員 出口 修至)
低温矮星(cool dwarfs) は、恒星の中でも特に表面温度の低い矮星( < 3900 K、M,L,T dwarfs) です。低温矮星に関する詳しい研究は、始められてまだ10 年ほどしか経っておらず、低温矮星の磁場活動をよく反映しているとされる電波領域の研究については、近年ようやく観測が行われるようになり、議論されはじめたところです。
恒星からの電波は、これまでに10 個程のM、L型星に対して4.8GHzや8.4GHz で検出されています。これら電波の放射機構としては、当初、その周波数や強度からgyrosynchrotron放射であると考えられていましたが、その後、100 %に近い円偏光度を持った電波放射が観測されると、新たにelectron-cyclotron maser 放射という考えが登場し、また、そういった変動が見られない電波放射も観測されるなど、現在のところ、まだ良く分かっていません。
そこで私たちは、他の低温矮星についても電波観測を行い、いずれの放射機構が多数を占めるのか、また新たな特徴を持った電波放射が見られないか、調査することにしました。
本発表では、今年の6月にインドのGiant Metrewave Radio Telescope(GMRT) を用いて、M型矮星の電波観測を行いましたので、そのことについて報告します。この観測では、近くにM型矮星が見られる電波源(FIRST 天体、1.4GHz)8 天体と、以前私たちが行った観測から、同じくM型矮星に近く、低周波数(74MHz、230NHz) で明るい電波源1天体について、3 周波数(1400、610、230MHz) の電波観測を行いました。
大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッドN体シミュレーションコードの開発
【日時】10月28日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッドN体シミュレーションコードの開発
【発表者(敬称略)】押野翔一 (総研大 D2・三鷹、指導教員 牧野淳一郎)
現在、標準的な惑星形成論としてコア集積モデルが考えられている。このモデルは主に4つの段階を経て惑星が形成されると考えられている。最初の段階では原始星周囲にガスとダストからなる円盤が形成される。次にダストが赤道面に落下しキロメートルサイズの微惑星ができる。その次の段階では微惑星どうしが衝突合体しより大きい原始惑星へと成長する。最後の段階では原始惑星どうしの衝突やガス集積がおこり惑星になったとされている。
このうちの微惑星衝突段階は重力が支配的でその進化の研究にはN体計算が用いられている。しかし、先行研究で行われているのは粒子数が数万体、1粒子当たりの質量が 10^{23} g 程度のミュレーションであるが、初期に形成される微惑星の質量は 10^{19}-10^{21} g と考えられておりこの質量の微惑星の振る舞いについては良く分かっていない。
そこで本研究では粒子数を増やし高い質量分解能でのシミュレーションを行なえる計算コードを開発し、これらの未解決の問題を解決することを目標とする。大粒子数を扱うには近似計算であるツリー法を使うと計算量を減らせるが、微惑星衝突を精度良く計算したいのでここでは使用する時間刻みを短くする必要がある。
そこで本研究では近接遭遇を取り出し、異なる計算法を用いることで精度と計算速度を両立させる。本発表では今回開発したコードのテスト計算の結果と今後の展望について述べる。
金属欠乏星スペクトルの徹底解析 -修論予告編-
【日時】10月21日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】金属欠乏星スペクトルの徹底解析 -修論予告編-
【発表者(敬称略)】伊藤紘子 (総研大 M2・三鷹、指導教員 青木和光)
ビッグバン直後の宇宙には水素やヘリウムなどの軽元素しか存在しなかったが、その後生まれた星々によってさまざまな重元素が作られ、時間とともに重元素量が増えて現在のような宇宙が形成された。
この進化過程は「宇宙の化学進化」と呼ばれるが、特に宇宙初期でどのように進化が進んだのか、また、そのきっかけとなる宇宙の第一世代星がどのような星だったのかはまだ明らかにされていない。
このような問題にアプローチする手段として、我々は「金属欠乏星」の化学組成を調べて手がかりを得ようとしている。
金属欠乏星とはその名のとおり、太陽に比べて金属量(鉄の量を指標とする)が極端に少ない星である。まだ重元素が少なかった宇宙初期に誕生し、現在も大気中に宇宙初期の化学組成を保持していると考えられる。
我々はすばる望遠鏡の可視高分散分光器HDS を用いて、[Fe/H]=-3.7(鉄が太陽の5千分の一しかない)の9等星BD+44$^\circ$493を見出し、炭素過剰の原因として第一世代星の超新星爆発が最も有力であること、ベリリウム組成が非常に低いこと、などを明らかにした。(Ito et al. 2009, ApJL, 698, L37)
今後、この星のスペクトルのさらに徹底した解析を行い、修士論文にまとめる予定である。今回のコロキウムでは、その予告編として、これから取り組む課題について説明する。
原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション
【日時】10月14日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション
【発表者(敬称略)】富田 賢吾 (総研大 D1・三鷹、指導教員 富阪 幸治)
星形成過程はALMAなどの次世代の大型観測計画の重要なターゲットの一つであり、観測と比較できるような精密なモデルの構築が強く要請されている分野である。星形成は非常に大きなスケールの変化を伴う過程であり、また重力・磁場・輻射などの物理過程が複雑に絡み合う現象である。この問題に取り組むため我々は多重格子、自己重力、MHD、そして新たに開発した流束制限拡散近似に基づく輻射輸送計算を取り入れたシミュレーションコードにより研究を進めている。
本発表では輻射磁気流体シミュレーションによる原始星形成過程の初期段階であるファーストコアの形成・進化計算の結果について報告する。輻射流体計算によりこれまでのバロトロピック近似によるシミュレーションよりも現実的にガスの熱的進化を取り扱うことができる。これまでで、典型的な回転と磁場を持つ分子雲コアを初期条件として、中心温度が1500K、磁場によって加速されたアウトフローがおよそ100AUに達するまで計算を進めることができた。バロトロピック近似による計算結果と比べると、ファーストコアやアウトフローの進化について定性的に大きな影響はないものの、コアの寿命やサイズなどに定量的な差異が現れることがわかった。特に (1)ファーストコアの外層は衝撃波と輻射による加熱の結果高エントロピーになる (2)ファーストコア円盤の中心面付近のエントロピーは初期の回転と角運動量輸送効率に依存し、回転の効果が強いほど低エントロピーになる という違いを見出した。前者はファーストコアの熱放射或いは分子輝線による観測的性質を予測したり、原始星形成過程における化学進化を調べたりする際に重要となる。一方後者は、原始星形成過程における分裂・連星系形成確率に影響を与える可能性がある。