研究紹介」カテゴリーアーカイブ

大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッド N 体シミュレーションコードの開発

【日時】5月20日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッド N 体シミュレーションコードの開発
【発表者(敬称略)】押野 翔一(総研大 D2 ・三鷹、指導教員 牧野淳一郎)
惑星形成の標準モデルは Safronov (1969) や Hayashi et al. (1985) で提案されたモデルが基になっている。その形成過程の中の微惑星衝突段階では、微惑星同士が衝突合体を繰り返すことで原始惑星に進化したと考えられている。この過程の研究には N 体計算が用いられており、暴走成長や寡占成長 (Kokubo & Ida 1998, 2000) といった形成過程が解明されている。
しかし、先行研究では粒子数が数万体、1 粒子当たりの質量が 10^23 g 程度のシミュレーションが行われておりこれより軽い微惑星の振る舞いについては良く分かっていない。また、扱える粒子数に制限があるため、殆ど全てのN 体計算は perfect accretionを仮定して行われてきた。
この仮定が、特に惑星成長の後期の過程で適切かどうかは明らかではない。
そこで本研究では粒子数を増やし高い質量分解能でのシミュレーションを行なえる計算コードを開発し、これらの未解決の問題を解決することを目標とする。
N 体計算は粒子数の 2 乗で計算量が増加する。また惑星形成の場合、微惑星の公転周期に比べ形成時間がはるかに長いため非常に長時間の積分が必要になる。
以上の理由により惑星形成過程向けの高速に計算できるコードが必要となる。
今回開発したコードでは大粒子数を扱うためにツリー法(Barnes & Hut 1986)を用いてN体計算の計算量をO(N log N)に減らしている。
また惑星形成の計算は衝突系のため近接遭遇を精度良く計算する必要がある。
そこでハイブリッド法 (Chambers 1999) を用いて近接遭遇した粒子間重力を取り出し、細かい時間刻みで積分することにより精度を保ちながら高速に計算する。
本発表では今回開発したコードのテスト計算の結果と今後の展望について述べる。

シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星からもたらされる流星雨の可能性と今後の展望

【日時】5月13日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星からもたらされる流星雨の可能性と今後の展望
【発表者(敬称略)】堀井 俊 (総研大D2・三鷹、指導教員 渡部 潤一)
流星群は、地球が彗星から放出された濃いダストのトレイルを横切るときに出現する。
2006年に回帰したシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann)の核は、少なくとも過去2回の回帰の間に多くの破片に分裂してきており、今までに50個以上の分裂核が検出されている(一説には大小合わせて154個のミニ彗星が検出されたとも言われている)。それに関連した濃いダストのトレイルが、スピッツァー宇宙望遠鏡による赤外観測で検出されているので、将来、これらが活発な流星群の活動を引き起こすことが大いに期待される。
実際、過去の事例を探ってみると、1842/1843年に分裂したビエラ彗星(3P/Biela)が、後にアンドロメダ座流星群(Andromedids)として、1時間あたり数万個という流星雨をもたらしたという記録が残っている。
そこで、我々はこのシュバスマン・ヴァハマン第3彗星に対して、いわゆるダスト・トレイル理論を適用し、この彗星がもたらしうる流星群が将来あるかどうか、その可能性を調べてみた。その結果、将来、いくつかのダストのトレイルが地球に非常に接近し、流星群の活発な活動の可能性があるということが分かった。
今回の発表では、この研究の途中経過と今後の展望について発表する。

SIRPOLによる広視野赤外線偏光観測:大質量星形成領域NGC6334における磁場構造

【日時】4月22日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・ハワイ観測所
【タイトル】SIRPOLによる広視野赤外線偏光観測:大質量星形成領域NGC6334における磁場構造
【発表者(敬称略)】橋本 淳(総研大D3 ・三鷹、指導教員 田村 元秀)
星形成過程における磁場の役割としては, 一般的には、分子雲の自己重力収縮の支持(e.g., Shu et al. 1987),角運動量の輸送(e.g., Shu et al. 2000)などが知られており,オリオン大星雲においても, 分子雲の収縮により磁場が砂時計型に曲げられることが観測的に確かめられている(Schleuning 1998;Kusakabe et al.2008).
しかし, これまで行われてきた可視光・近赤外線や遠赤外線・サブミリ波波長での磁場構造の観測は効率が悪く,磁場が星形成に与える影響についての観測的研究は遅れている.
そこで我々は、磁場と星形成の関係を調べるために,南アフリカにあるIRSF 望遠鏡に近赤外線偏光観測装置SIRPOL を取り付け,銀河面付近(b=0.7 度)にある比較的近傍(1.7kpc) の大質量星形成領域NGC6334の詳細な磁場構造の観測を行ってきた. この領域には少なくとも7 つの大質量星形成サイトが様々な進化段階にあると考えられており,大局的な環境が同じであることから、系統的に大質量星形成と磁場の関係を明らかにすることが可能になると考えられる.一般的に回転している非対称な星間ダストは局所的な磁場によって磁場と垂直に整列することが知られており(Davis & Greenstein 1951),背景星の偏光観測を行うことは領域を貫く局所的な磁場を検出する有力な手段となる.
観測の結果, およそ4500 個の点源から偏光を検出することができ, 本領域には銀河磁場と平行な偏光成分とそれにほぼ垂直な成分が存在することがわかった.また, 解析の結果、約4500 個のうち約3500 個の点源に対して近赤外線カラーと偏光の情報が得られた。本講演では、カラーと空間情報を利用して、銀河磁場と星形成領域に付随する磁場構造を分離し、大質量星星団形成領域における(単なる垂直成分だけでない)複雑な磁場構造の存在を示す。また、過去のミリ波連続波の観測等とも比較し、磁場構造の形成原因を議論する。さらに、分子雲における偏光効率を比較することによって、領域内の5つの大質量星形成領域NGC6334I-V における磁場構造の違いについても考察する。

PICES project 及びCL0016に関する論文紹介

【日時】2月20日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】PICES project 及びCL0016に関する論文紹介
【発表者(敬称略)】山田 和範 (総研大 M1・三鷹、指導教員 児玉 忠恭)
 銀河団は宇宙におけるもっとも大きな構造である。力学的タイムスケールがHubble timeに匹敵するため、これらの系は未だ力学的成長を続けている。
コールドタークマターシナリオによると、小さい構造が衝突合体を繰り返すことで大規模構造を形成し、その集合のプロセスにおいて銀河は他の銀河などから環境効果を受ける。しかし、精力的な研究にもかかわらずこの環境効果の背景にある物理プロセスは未だ確定的には把握されないでいた。これまでは、望遠鏡の集光力が弱く、まだ、一度に観測できる視野も狭かったため、銀河団か一般フィールドのどちらかに焦点を定めており、これら2 つの環境を橋渡す領域に関しての知見はほぼ得られていなかった。
PISEC project はすばる望遠鏡の30′ をカバーするsuprime-cam を利用することで、銀河団中心に始まり、周辺構造を経て、一般フィールドまで一気に観測することが出来る。このプロジェクトではこの特性を利用し、様々な進化段階における遠方銀河団の詳細な観測、また、それらの物理量の詳細を比較することで、銀河団スケールの集合化、星形成史及び環境効果を扱う。
今回紹介する論文は、PICES project の構想と、その内の3 つの銀河についてをまとめ、更に、中でも最も豊富な銀河を持ち広大な構造を持つ銀河団であるCL0016 の分光観測について書かれたものである。これらの論文は修士論文で解析する予定であるデータの基となるものであるため今回紹介することにした。

炭素過剰金属欠乏星の化学組成解析

【日時】2月6日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】炭素過剰金属欠乏星の化学組成解析
【発表者(敬称略)】伊藤 紘子(総研大M1・三鷹、指導教員 青木 和光)
ビッグバン直後の宇宙には水素やヘリウムなどの軽元素しか存在しなかったが、その後生まれた星々によってさまざまな重元素が作られ、時間とともに重元素量が増えて現在のような宇宙が形成された。この進化過程は「宇宙の化学進化」と呼ばれるが、特に宇宙初期でどのように進化が進んだのか、また、そのきっかけとなる宇宙で最初に生まれた星がどのような星だったのかはまだ明らかにされていない。
このような問題にアプローチする手段として、我々は「金属欠乏星」の化学組成を調べて手がかりを得ようとしている。金属欠乏星とはその名のとおり、太陽に比べて金属量(鉄の量を指標とする)が極端に少ない星である。まだ重元素が少なかった宇宙初期に誕生し、現在も大気中に宇宙初期の化学組成を保持していると考えられている。
我々はすばる望遠鏡の可視高分散分光器HDS を用いて、[Fe/H]= -3.7(鉄が太陽の5千分の一しかない)の金属欠乏星を新たに発見し、化学組成を調べた。この星は9 等星でとても明るく、さらに進化の進んでいない準巨星であるため、宇宙初期の情報を多く引き出すことができる。
この星は鉄に対して炭素が異常に多い「炭素過剰金属欠乏星」である。なぜ炭素が過剰な金属欠乏星があるのかについてはいくつかの説が提案されているが、ここでは第一世代星の超新星爆発が最も有力な原因であることがわかった。
さらに、この星の明るさを生かして紫外域でも観測を行い、3130Åにあるラインからベリリウムの組成を調べたところ、これまで報告されている中で最も低いupperlimit が得られた。これは宇宙線による軽元素合成を探る手がかりになる。
コロキウムでは金属欠乏星の紹介を行い、観測と解析の結果、および今後の展望について述べる。