炭素過剰金属欠乏星の化学組成解析

【日時】2月6日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】炭素過剰金属欠乏星の化学組成解析
【発表者(敬称略)】伊藤 紘子(総研大M1・三鷹、指導教員 青木 和光)
ビッグバン直後の宇宙には水素やヘリウムなどの軽元素しか存在しなかったが、その後生まれた星々によってさまざまな重元素が作られ、時間とともに重元素量が増えて現在のような宇宙が形成された。この進化過程は「宇宙の化学進化」と呼ばれるが、特に宇宙初期でどのように進化が進んだのか、また、そのきっかけとなる宇宙で最初に生まれた星がどのような星だったのかはまだ明らかにされていない。
このような問題にアプローチする手段として、我々は「金属欠乏星」の化学組成を調べて手がかりを得ようとしている。金属欠乏星とはその名のとおり、太陽に比べて金属量(鉄の量を指標とする)が極端に少ない星である。まだ重元素が少なかった宇宙初期に誕生し、現在も大気中に宇宙初期の化学組成を保持していると考えられている。
我々はすばる望遠鏡の可視高分散分光器HDS を用いて、[Fe/H]= -3.7(鉄が太陽の5千分の一しかない)の金属欠乏星を新たに発見し、化学組成を調べた。この星は9 等星でとても明るく、さらに進化の進んでいない準巨星であるため、宇宙初期の情報を多く引き出すことができる。
この星は鉄に対して炭素が異常に多い「炭素過剰金属欠乏星」である。なぜ炭素が過剰な金属欠乏星があるのかについてはいくつかの説が提案されているが、ここでは第一世代星の超新星爆発が最も有力な原因であることがわかった。
さらに、この星の明るさを生かして紫外域でも観測を行い、3130Åにあるラインからベリリウムの組成を調べたところ、これまで報告されている中で最も低いupperlimit が得られた。これは宇宙線による軽元素合成を探る手がかりになる。
コロキウムでは金属欠乏星の紹介を行い、観測と解析の結果、および今後の展望について述べる。