赤外線偏光観測による褐色矮星の円盤の探査

【日時】6月11日(水) 10:30-12:00
【タイトル】赤外線偏光観測による褐色矮星の円盤の探査
【発表者(敬称略)】橋本 淳(総研大 ・三鷹、指導教員 田村 元秀)
概要:星形成領域には多数の若い褐色矮星および惑星質量天体候補が存在することが知られている(Tamura et al. 1998;
Oasa et al. 1999; Lucas & Roche 2000; Muench et al. 2001)。
しかし、その形成過程にはまだ決着がついておらず、standard formation scenario (e.g. Jayawardhana et al. 2002)
とejection scenario (Reipurth & Clarke 2001)が提唱されている。前者は低質量星の形成過程のように分子雲コアの収縮により形成され、後者は星が形成されるごく初期の段階で他の星との相互作用により放り出されることを提案している。したがって、ejection scenarioでは星周円盤のはぎ取りが起こるため、若い褐色矮星の円盤を詳細に調べることでそれらの形成過程の解明に繋がると考えられる。
そこで本研究では、南アフリカにある1.4mIRSF望遠鏡に偏光撮像装置を取り付け、おうし座、へびつかい座、カメレオン座領域にある若い褐色矮星約20天体の近赤外線偏光観測を行なった。
観測対象の褐色矮星は、中間赤外線での赤外超過もしくはHα輝線の観測から星周円盤の存在が間接的に
確かめられている天体である。偏光観測によって円盤からの散乱光を直接検出することが期待される。
本講演では観測と解析の結果を報告し、褐色矮星の形成過程について議論する。

太陽の「音色」の分析法―日震学のアプローチ―

【日時】6月4日(水) 10:30-12:00
【タイトル】太陽の「音色」の分析法―日震学のアプローチ―
【発表者(敬称略)】長島 薫(総研大D2・三鷹、指導教員 関井 隆)
 日震学helioseismology とは、太陽表面の振動の観測に基づいて、太陽の内部構造を探る研究分野である。
 太陽表面ではいわゆる「5分振動」と呼ばれる振動が観測される。
この「5分振動」の主成分は、太陽内部のプラズマが乱流的対流により音波を放射し励起する、多数の固有振動である。太陽の固有振動数は太陽の内部構造で決まる、太陽独自の「音色」である。この音色をうまく聞きわける、すなわち、固有振動数スペクトルを調べることで逆に、太陽内部の音速・密度構造や自転角速度分布を求めることができる。
この手法(インバージョン)により、太陽の内部構造モデルは非常に精密なものになってきた。
 また近年では、黒点など太陽面上の特定の領域のローカルな表面下構造を探るのに適した局所的日震学local helioseismology も進展が著しい。
 これは、表面上の特定の二点間を波がどう伝わるか、例えば波の伝播距離と伝播時間の関係をもとに、その波の通った領域の物理的状態を探る方法であり、地震学で従来から使われてきた手法に対応する。現在活躍中の太陽観測衛星「ひので」や今年度中の打ち上げが予定されているSolar Dynamics Observatory といった、最新の観測衛星で得られる高分解能観測データを活かし て、今後発展が期待される。
 今回のコロキウムでは、このような日震学の基本的な考え方を紹介するレビューを行う。内部構造を求めるプロセスの解説とともに、実際のデータによる解析結果、また自身の研究の現状などについて述べたい。

W31A領域に付随する水蒸気メーザーによる3次元的速度構造

【日時】5月21日(水) 10:30-12:00
【タイトル】W31A領域に付随する水蒸気メーザーによる3次元的速度構造
【発表者(敬称略)】山下一芳(総研大D3 ・三鷹、指導教員 柴田克典)
W31A領域は一酸化炭素や赤外線の観測などから,数千太陽質量相当のガスがあると見積もられている
大質量の星形成領域である。この領域は電波の連続波観測からUltra-Compact HII Regionであることも知られており,また,NH3・H66α・CS など多くの分子輝線が検出されている。
それらの分子輝線のマップから,中心に落ち込みながら回転するガス雲の系であることも分かっており,NH3の分子輝線から,この降着流の回転軸は北東-南西方向で,軸は天球面に対し視線方向に4度傾いており,我々はほぼ円盤のへりを見ているということが観測から見積もられている。(Sollins et. al. 2005)
この天体において,22GHz帯に存在する水蒸気メーザーは1991 年にVLA 干渉計でマッピング観測されている。(Hofner et.al.1996)
この時の観測結果のマップからは,水蒸気メーザーのスポットは直線状に降着円盤の北西側に,軸に垂直な方向に付随していることが確かめられていた。また,水蒸気メーザーの視線速度のドリフトも23年にわたる単一鏡観測で確認されており(Lekht et. al. 2006),これらが降着流にのっていると示されていた。
しかしながら,2005 年10 月から2006 年3 月にかけてVERAの観測から,これらの水メーザーは円盤に付随しているものではなく,いくつかの星の系が起源であることがその速度場から推測できた。
今回はこの観測で得られた水蒸気メーザーの付随する雲の速度場と個々の水蒸気メーザーに対する考察をし,また今後の展望についても発表する。

Variability of Blazar ”NRAO512”

【日時】5月14日(水) 10:30-12:00
【タイトル】Variability of Blazar ”NRAO512”
【発表者(敬称略)】貴島政親(総研大 D3・水沢、指導教員 川口則幸)
Blazars are very compact and highly variable sources.
According to unification scheme, they have a relativistic jet that is pointing in the general direction of the Earth.
They were divided into two sub-classes ”BL Lacetae Objects (hereafter”BLO”)”
and ”Flat-Spectrum Radio Quasar (hereafter ”FSRQ”)”.
The primary difference is that BLO has no(or weak) emission line, FSRQ has strong emission line. Many authors have attempted
to explain their differences in terms of evolution(FSRQ into BLO) or beaming effect or others. Discussion have been continued over 15-20yr, and haven’t completed yet.
Authors have reported many studies on flux variability of AGN , however their periodicities have been still unclear. Only OJ287 shows
the clear evidence of 12 yr periodicity. The origin of variability have been investigated using VLBI. According to recent publications,
there are two kinds of flare which has freq-lag ”core-flare” and no freq-lag ”jet-flare”.
Pyatunina et al.(2000,2007) defined the activity cycle as the time interval between two successive ”core (optically thick) flare”. Between 2000 and 2007, they found periodicities of flux variations for 6 sources, and investigated the origin of variation using VLBI mapping technique.
I found that the Blazar ”NRAO512” flared in 2007/06 using Japanese eVLBI-array ”OCTAVE”. Above-menthioned, periodicity of flare
is important. I analyzed over 100 epoch archives of VLBI. I found the periodicity of flux variation for Blazar ”NRAO512”. The periodicity is 9-10 yr.
This result is important to support existence of periodicity.
Because ”NRAO512” is very compact source, many authors could not determine the orientation of jet and their structure
using VLBI with 2 milli-arcsecond resolution. I analyzed more higher resolution (less than 1 mas) datum, and first determined the orientation and proper motion of jet knot.
Finally, I introduce a new hypothesis that the period of variability may be a good tool to investigate difference between BLO and FSRQ.

多様体補正法を用いた衛星の軌道数値積分法

【日時】5月7日(水) 10:30-12:00
【タイトル】 多様体補正法を用いた衛星の軌道数値積分法
【発表者(敬称略)】 梅谷 真史 (総研大 D3・三鷹、指導教員 福島 登志夫)
衛星の軌道を高精度かつ高速に求める数値積分法の研究を行った。この研究では多様体補正法と呼ばれる方法を用いた。多様体補正法は Nacozy(1971) により考案された手法であり、近年 Fukushima(2003) によって改良された方法である。その原理は系の持つ物理的な保存量 (もしくは変化が微小である準保存量) を基準に数値解を補正することである。
Fukushima による多様体補正法では摂動二体問題の形で記述される運動方程式において、二体問題の保存量が摂動により時間変化する (準保存量となる)、この値から解を補正した。しかし、衛星及び人工衛星の運動では、いわゆる J2 項 (地球重力場の軸対称性からの
差による摂動) による摂動が大きく Fukushima による多様体補正法では充分な結果が得られていない。
我々は摂動を形式的に分類し全エネルギーやいわゆる Jacobi 積分と呼ばれる量を準保存量として導入した。さらに解の補正法に Ma et al.(2008) による速度スケール変換を用いた。発表では詳しい手法と数値実験による結果、そして今度の発展について報告する予定である。