低光度AGN M 87の電波コア位置周波数依存性の検証

【日時】7月15日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】低光度AGN M 87の電波コア位置周波数依存性の検証
【発表者(敬称略)】秦 和弘 (総研大 D1・三鷹、指導教員 川口則幸)
活動銀河核(AGN)は宇宙で最も激しい活動性を示す天体であり、その活動性の中心的役割を担っているのがブラックホール極近傍に形成される降着円盤である。
降着円盤はコンパクトな空間スケールゆえ未だ直接撮像には至っていないが、AGNの重力エネルギー駆動という根本的描像の実証、そしてジェット生成機構、角運動量輸送機構などの解明にとって直接撮像の意義は極めて大きい。
VSOP-2やサブミリ波VLBIといった次世代のVLBI技術では40マイクロ秒角という圧倒的な空間分解能を武器に降着円盤の直接撮像を目指す。
VSOP-2における円盤撮像ターゲットは低光度AGNと呼ばれる種族である。
低光度AGNは質量降着率が低いために円盤が光学的に薄く、幾何学的に厚い高温降着流(Radiatively-inefficient accretion flow; RIAF)状態になっていると考えられており、VLBIで検出可能な輝度温度の電波コアを持つ。更に近傍宇宙に数多く存在するためシュバルツシルト半径直近まで空間分解可能であり、まさに円盤撮像にとっては理想的な天体である。
しかしながら、観測される電波コアはRIAF成分とジェット成分の混合であることに注意する必要があり、ジェットからの寄与はRIAF成分を検出する上で大きな障壁となる可能性がある。
低光度AGNの電波コアがRIAF/ジェットのどちらに支配されているのか、この問題は長らく議論が続いているが、空間分解能以下のスケールで放射モデルが縮退しているために未だ決着していない。
そこで今回、電波コアの起源を特定するための1つの可能性としてコアシフトに注目した。
コアシフトとは、電波コアの位置が周波数によって変化する現象であり、指向性を持ったシンクロトロン放射源の光学的厚さが空間変化することによっておこると考えられている。すなわち、もし電波コアが指向性のあるジェット支配型ならばコアシフトは起こり、球対称に近い放射形状を持つRIAF支配型ならばコアシフトは起こらないはずである。
現在VLBAアーカイブデータを用いて試験的に近傍低光度AGN M87のコアシフトの有無を調べており、本講演ではその進捗状況について報告する。