銀河間重力相互作用が分子ガスに与える影響について

【日時】5月26日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】金子 紘之(総研大 D3・野辺山、指導教員 : 久野 成夫)
【タイトル】銀河間重力相互作用が分子ガスに与える影響について
銀河同士の近接相互作用(衝突、合体)現象を起こしている天体、相互作用銀河は銀河の進化に対して重要な役割を持つ。
例えば、渦巻銀河から楕円銀河へと進化や、高輝度赤外線銀河(ULIRGs)の発現にもこれら相互作用銀河が影響しているといわれている。
相互作用銀河の特筆すべき性質の一つに爆発的な星形成があげられる。
数値計算によって、多くの研究が進められており、いくつかのメカニズムが提唱されている。
しかしながら、星形成の直接の母体である分子ガスに関する今までの観測は、装置的、時間的資源の制限からその殆どがごく限られた領域で行われているに過ぎず、星形成が活発化していく過程を理解するには不十分である。
爆発的星形成の前段階である相互作用初期~中期の天体に対して系の内部を分解して観測し相互作用が分子ガスに与える影響を詳細に調べることは爆発的星形成のメカニズムを明らかにする上で非常に重要である。
そこで我々は、野辺山45m電波望遠鏡を用いて、比較的近傍にあるいくつかの相互作用初期~中期と目される相互作用銀河に対して12CO(1-0)輝線マッピング観測を続けてきた。
本発表では、この観測結果を中心に報告する。

惑星形成過程にガス抵抗があたえる影響について

【日時】5月19日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】押野 翔一 (総研大 D3 ・三鷹、指導教員 : 牧野 淳一郎)
【タイトル】惑星形成過程にガス抵抗があたえる影響について
太陽系形成の標準モデルによると、惑星系は水素、ヘリウムなどのガスが質量の約99%をしめ、残りがダストで構成されている原始惑星系円盤から形成される。
円盤中のダストから微惑星ができ、その後微惑星同士が衝突合体することにより現在の岩石惑星及びガス惑星のコアが形成されたと考えられている。
この段階の形成過程では、微惑星どうしの重力相互作用によって微惑星は集積しているためN体シミュレーションを用いた研究が多く行われている。
先行研究で行われているN体シミュレーションでは計算量の問題から一つの微惑星の質量が10の23乗gの初期条件が用いられている。
一方、重力不安定説によれば原始惑星系円盤中に存在するダストから形成される微惑星の質量は不安定の波長内のダスト質量となるため、太陽系標準円盤の面密度を仮定すると、重力不安定によって形成される初期の微惑星の質量はより小さい可能性がある。
微惑星は円盤内のガスから抵抗を受けるが、この効果は小さい粒子ほど相対的に重力にたいするガス抵抗の影響が大きくなる。そのためより小さい微惑星の初期条件を用いてガス抵抗が惑星形成過程にどう影響するか調べる必要がある。
本発表では現在行っているガス抵抗を考慮したN体シミュレーションについて報告する。

VLBI多周波アストロメトリによるM87相対論的ジェットの放射領域とブラックホールの位置関係の推定

【日時】5月12日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】秦 和弘(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 川口 則幸)
【タイトル】VLBI多周波アストロメトリによるM87相対論的ジェットの放射領域とブラックホールの位置関係の推定
活動銀河中心核(AGN)から生成される相対論的ジェットはAGNの活動性を特徴づける最も激しい現象であり、様々な高エネルギー現象の現場として電波からγ線にわたり古くから研究されている分野である。
しかしながら、しばしば観測される激しい時間変動は放射領域が極めてコンパクトであることを示唆しており、分解能の低い高エネルギー観測から空間分解によって直接現場の物理状態を検証することは極めて困難であるのが実情である。そこで鍵を握るのが圧倒的な空間分解能を有するVLBIであり、VLBI観測からAGNジェット最深部の物理的描像を直接的に構築していくことは高エネルギー放射機構などを解明する突破口になるであろう。
これらを踏まえ、現在我々は観測されるジェットの放射領域と中心エンジンであるブラックホールの位置関係を調べている。一般に、放射領域の”サイズ”は光度変動のタイムスケールから推定することが出来るが、”中心エンジンからの距離”を評価することは難しく、これまで放射領域とブラックホールの位置関係を観測的に検証した例は極めて少ない。Marscher et al.(2008)らはあるジェット天体をVLBI及び他波長で同時観測し、その放射領域は中心エンジンから1~10pcの場所で初めて起こるとする観測結果を得ているが、比較的遠方天体であったため未だその解釈には議論が続いている。
そこで我々は今回、最も近傍のジェット天体であるM87について、多周波アストロメトリという観点からこの問題に取り組んでいる。
M87は典型的なAGNに比べ約100倍リニアスケールで分解できる点で理想的である。今回のセミナーではその途中経過を報告する。

Weak lensing+photo-z catalog による銀河団探査

【日時】4月28日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】内海 洋輔(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 宮崎 聡)
【タイトル】Weak lensing+photo-z catalog による銀河団探査
銀河団は宇宙最大の重力束縛系である.
質量のほとんどがダークマターでしめられている.
銀河団の進化は自己重力による収縮過程と宇宙膨張による成長の阻害の二つの過程が支配しているので,銀河団の個数や質量関数の進化は宇宙論パラメータに強く依存している.
この点に着目して宇宙論パラメータを調べる研究は可視光観測,X線観測によってすでに多くなされてきた(e.g. Abazajian et al., 2005; Vikhlinin et al., 2009).
しかしこれらの手法では質量となんらかの観測量の間の関係を仮定する必要があるため質量関数などを構築する上で,系統的なバイアスを生みやすい.
そこで質量を直接反映する弱重力レンズ効果を使った研究が重要になる.
一方弱重力レンズ効果を使った銀河団探査では銀河団の存在を確認することはできるが,その赤方偏移を測ることができないために質量を決めることができない.
しかし将来的に計画されている1000平方度を超える HSC wide survey では分光フォローアップが現実的ではなくなるので photo-z を使うことを検討している.
今回は予備的な研究として SDSS photometric redshift catalog と比べることで銀河団の赤方偏移が決められるかを検討した.
本講演ではその経過報告と今後の展望について述べる.

近傍ULIRGのブラックホール質量

【日時】4月14日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】大井渚(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 今西昌俊)
【タイトル】近傍ULIRGのブラックホール質量
超高光度赤外線銀河(ULIRG)はクエーサーに匹敵するほどのエネルギー(10^12Lsun)を赤外線で放射していて、銀河の衝突・合体の末期に選択的に発見されている。クエーサーの中心にあるブラックホールは普通の銀河中心のブラックホールよりも一桁重く(MBH>10^8Msun)、この質量のブラックホールは、ガスに富む普通の銀河(MBH~10^7Msun)の合体で形成できるというシミュレーション結果がある。
これらのことから、ULIRGはクエーサーに進化するという可能性が示唆されているが両者は進化関係にないと主張する結果も出ており、状況は混沌としている。我々はULIRGのブラックホール質量をクエーサのと比較することで、この問題に観測的な制限をつけることを目指している。ブラックホール質量と相関があり、進化段階に鈍感な銀河の有効半径を、減光の影響が小さい近赤外線Kバンドから求め、ガスに隠されているULIRGのブラックホール質量を見積もる。本発表では南アフリカにあるIRSF望遠鏡を用いた深撮像データの解析結果を報告する。解析が終わった天体についてブラックホールを見積もったところ、半分以上の天体でクエーサーに匹敵する質量のブラックホールをもっている可能性があることが分かった。
またIRSF望遠鏡は近赤外線J, H, Kバンドを同時に観測できるため、バンドごとの有効半径の違いについても議論する。