年別アーカイブ: 2010年

系外惑星軌道の起源

【日時】2月3日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】系外惑星軌道の起源
【発表者(敬称略)】高橋安大(総研大 D2・三鷹、指導教員 田村元秀)
初めて1995年にMayor & Quelozによってペガスス座51番星に惑星系が発見されてから今年で15年となる。
その後主に視線速度法やトランジット法と呼ばれる主星からの光を観測する間接観測法を用いて発見された惑星数は400個を超え、統計的議論が可能になろうかとしている。
しかしながら、これまでに発見された惑星系は観測バイアスも相俟って、従来太陽系を基に考えられてきた惑星形成理論から予測される姿とは大きく異なり、軌道長半径は非常に小さく(0.0520$AUという主星から遠く離れた惑星たちは、その形成時間の問題からこれまで最有力候補と言われたコア集積モデルよりも重力不安定モデルを支持するのではないかと言われ、ますます惑星形成理論を混沌へと叩き込む結果となった。
このようにとりわけ惑星を特徴づける重要な要素である公転軌道は現在の観測からも比較的よく求まる物理量であることから研究の対象とされている。
本発表ではこれまでに提唱されている惑星形成理論を概観した後、間接観測の手法と結果をおさらいし、これまでに有力とされている惑星軌道移動モデルを紹介する。
その後、新しい惑星探査手法である直接撮像について述べ、具体例としてThalmann et al. 2009の論文を紹介する。
そして、直接撮像によって新しく考案された軌道移動モデルのうちのひとつとしてCrida et al. 2009を、最後にこれまでの形成モデルの困難を解決しうる、最も新しい星惑星形成モデルとして考えられたInutsuka et al. 2009を紹介する。

超低質量天体の起源解明へ向けて

【日時】2月3日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】超低質量天体の起源解明へ向けて
【発表者(敬称略)】末永 拓也 (総研大 D2・三鷹、指導教員 林正彦)
初期質量関数(IMF)の起源の解明は星形成を考える上で非常に重要な課題である。
例えば太陽近傍のfield starに関してはSalpeter(1955)以来、多くの研究がなされ低質量側では0.08太陽質量までは良く分かっている。
しかし、さらに低質量側の褐色矮星質量や惑星質量となるとそのIMFは未だに良く分かっていない。
このことは、そのような天体は1995年以降に発見されたため研究の歴史が浅い、可視で非常に暗い天体なので観測が難しい、といったことに起因する。
近年、赤外観測技術の発達に伴い、そのような超低質量天体のIMFを決めるために若い星形成領域の観測が盛んに行われている。
超低質量天体は年齢とともに暗くなっていくが、年齢が若いような領域ではまだ比較的に明るく観測することが可能だからである。その結果、褐色矮星質量や惑星質量のIMFが従来予想されていた星のIMFから逸脱した様子を見せていることが分かった。
これは、超低質量天体特有の形成メカニズムが存在することを示唆している。
超低質量天体形成メカニズムは現在まで十分には理解されておらず、IMFを決めてやることで制限をかけることができると期待される。
このような観測には、深い測光観測とそのfollow-upのための分光観測が不可欠である。
というのは測光観測だけでは銀河との分離や、membershipを議論することが難しいためである。
分光観測では得られたスペクトルの特徴からこれらを議論することが可能となる。
本研究では、若い星形成領域であるトラペジウムのouter partに対してSubaru/MOIRCSによる多天体分光観測を行った。
観測天体は、同領域の測光観測であるLucas,Roche& Tamura(2005)から主に選出している。
今回は、以上の様な観測のバックグラウンドを中心に、これから研究していくにあたっての展望を述べる。

M型矮星のインド・GMRTでの観測結果について 2

【日時】1月27日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】M型矮星のインド・GMRTでの観測結果について 2
【発表者(敬称略)】小池 一隆 (総研大 D2・三鷹、指導教員 出口 修至)
低温矮星(cool dwarfs)は、恒星の中でも特に表面温度の低い矮星(<~3900 K、M,L,T dwarfs)です。 低温矮星に関する詳しい研究は、始められてまだ10年ほどしか経っておらず、低温矮星の磁場活動をよく反映しているとされる電波領域の研究については、近年ようやく観測が行われるようになり、議論されはじめたところです。 恒星からの電波は、これまでに10個程のM、L型星に対して4.8GHzや8.4GHzで検出されています。これら電波の放射機構としては、当初、その周波数や強度から gyrosynchrotron 放射であると考えられていましたが、その後、100%に近い円偏光度を持った電波放射が観測されると、新たに electron-cyclotron maser 放射という考えが登場し、また、そういった変動が見られない電波放射も観測されるなど、現在のところ、まだ良く分かっていません。 そこで私たちは、他の低温矮星についても電波観測を行い、いずれの放射機構が多数を占めるのか、また新たな特徴を持った電波放射が見られないか、調査することにしました。 本発表では、前回の発表に引き続き、私たちが昨年6月にインドのGiant Metrewave Radio Telescope (GMRT)を用いて行ったM型矮星の電波観測についてご報告します。 この観測では、近くにM型矮星が見られる電波源(FIRST天体、1.4GHz)8天体と、以前私たちが行った観測から、同じくM型矮星に近く、低周波数(74MHz、230MHz)で明るい電波源1天体について、3周波数(1400、610、230MHz)の電波観測を行いました。

メタノールメーザー源を用いたアストロメトリと銀河系棒状構造

【日時】1月20日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】メタノールメーザー源を用いたアストロメトリと銀河系棒状構造
【発表者(敬称略)】松本尚子 (総研大 D2・三鷹、指導教員 本間希樹)
銀河系の棒状構造について過去の様々な観測や理論モデルからその存在が示唆されており、大体の傾向は捉えられている。
しかし、絶対位置や3次元運動を抑えた観測はこれからであり、不確定性が大きい。特に、ガスの運動については、3次元的にガスの固有運動を直接議論できるような観測はなされていない。
そこで、我々はこの銀河系棒状構造を対象に、VERA・JVNを用いた超長基線電波干渉計による高精度アストロメトリ観測を計画・遂行中である。
この観測により、棒状構造を構成していると考えられるメーザー源の絶対位置・絶対3次元運動を捉えることを目標とする。
メーザー源の中でも、6.7GHz帯メタノールメーザー源は大質量星形成のみに付随し、系内のガスの運動をとらえることができる魅力的なツールであり、3kpc arm付近の天体を見るのに、天体数・fluxなどの観測条件を十分に備えている。
現在VERAでは、これらのターゲットのフリンジチェック観測を終え、11月から本観測に乗り出している。
今回は、主にフリンジチェック観測結果の報告とVERA・JVNによる6.7GHz帯のメタノールメーザー源のアストロメトリ試験観測データの解析経過報告について紹介し、関連して、昨年シリーズで出版されたVLBAを用いた12GHzメタノールメーザー源のアストロメトリ観測関連の論文や銀河系N体シミュレーションの論文(Baba et al. 2009)についても少し触れる予定である。

総研大電波観測実習報告

はじめに
2009年12月23日から27日まで野辺山宇宙電波観測所において総研大の電波観測実習が実施された。この実習の目的は、電波観測に必要な基本計測器の計測原理・操作に習熟すること、電波天文観測で重要な観測装置の基本性能、観測内容について学習してその天文学的な意味について理解すること、実際の観測を行いデータ解析手法について学ぶこと、などがあげられる。参加者は、総研大物理科学研究科天文科学専攻の5年一貫博士課程1年生4名のほかに、総研大高エネルギー加速器科学研究科の学生1名、外国人留学生1名、外国人研修生2名や関連大学の学生・指導教官など計10名であった。総研大の教官は、下記名簿の4名が担当した。

Name 氏名 所属 (指導教官) 出身
総研大教官
Nario Kuno 久野成夫 国立天文台野辺山宇宙電波観測所
Shuro Takano 高野秀路 国立天文台野辺山宇宙電波観測所
Noriyuki Kawaguchi 川口則幸 国立天文台水沢VLBI観測所
Hideo Hanada 花田英夫 国立天文台月惑星探査検討室
総研大実習生
Yoshifumi Ishizaki 石崎剛史 柏川(遠方銀河、z>7) 筑波大学中井研
Yasuhiro Takahashi 高橋安大 田村(系外惑星) 東京大学尾中研
Keisuke Imase 今瀬佳介 今西(AGN広輝線) 東京理科大学松下研
Takuya Suenaga 末永拓也 田村(系外惑星) 筑波大学中井研
Akie Shimizu 清水景絵 羽澄(CMB) 筑波大学素粒子理論
外国人留学(研修)生
James Chibueze 鹿児島大学、面高(Massive SFR) Abia, Nigeria
Bonaventure Okere 野辺山、久野、出口(AGB Star) Imo, Nigeria
Ikechukwu Obi 野辺山、久野、出口(AGB Star) Anambra, Nigeria
傍聴参加者
Satoru Mima 美馬 覚 石野(宇宙背景放射の検出器開発)岡山大学
Hirokazu Ishino 石野宏和 岡山大学理学部物理学科、准教授

実習日程

12 月23 日(水) 講義・講習(総研大生他)
13:30 野辺山宇宙電波観測所集合, 宿泊等の受付
14:30-15:00 総研大観測実習ガイダンス日程(花田)
15:00-16:00 電波へリオグラフ見学(浅井)
16:30-17:30 水沢観測所の紹介(花田)
12 月24 日 (木) 講義・講習(総研大生他)
09:00-10:30 基本計測器について(川口)
10:45-12:15 電波観測概論(川辺)
13:30-15:00 基本計測機操作実習(川口、花田)
15:30-17:00 電波望遠鏡操作実習(久野、高野他)
17:30- 歓迎会
12月25日(金)-26日 観測実習(総研大生)
チューター;久野、高野、+NROポスドク他
12 月27 日(日) 観測成果報告会
9:30-11:00 観測結果の報告会(総研大生)
11:00-12:00 観測に関する質疑応答(久野、川辺、高野他)
13:00 解散

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