月別アーカイブ: 2009年5月

相互作用銀河の観測的研究 ~アンテナ銀河の$^{13}$COマッピング観測~

【日時】5月27日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】相互作用銀河の観測的研究 ~アンテナ銀河の$^{13}$COマッピング観測~
【発表者(敬称略)】金子 紘之 (総研大 D2・野辺山、指導教員 久野 成夫)
複数の銀河が近づきあった際に生じる近接重力相互作用は、各銀河の恒星やガスの分布及び運動を大きくかき乱す役割をもつ。
更に、これら相互作用している銀河(相互作用銀河)は楕円銀河や高輝度赤外線銀河の形成といった銀河の進化、爆発的星形成やAGNに代表される銀河の活動性と密接な関連がある。
また、初期宇宙に於ける銀河自体の形成にも大きく影響を与えることが明らかになりつつあり相互作用銀河は銀河研究にとって重要な研究対象である。
相互作用銀河の持つ最も特徴的な性質の一つに、通常の銀河に比べ赤外領域やH$\alpha$線での超過、即ち活発な星形成活動が行われる点を挙げることができる(e.g., Soifer {\it et al.}, 1984)。
一方で、何故このような活発な星形成活動が引き起こされるかは未だ解明されていない。
相互作用銀河は比較的遠方宇宙に多く、空間分解能、感度の制限があり、観測的理解が難しいためである。
そもそも、星形成とは分子ガスを原料として行われる現象として捉える事が出来る。
従って、近傍の相互作用銀河の分子ガスを詳細に観測することで相互作用が分子ガスに与える影響を明らかにし、相互作用による爆発的星形成のトリガーの理解が可能となる。
これまでの研究から、(衝突・合体後ではなく)相互作用中期の時点で劇的な星形成活動(スターバースト)の生じている天体が複数例報告されている(e.g., Zhu, 1999)。
中でもアンテナ銀河(NGC4038/39)は近傍(22Mpc)にあり、銀河間で非常に活発な星形成が行われている相互作用銀河として知られている。
この天体では精力的に多波長観測が行われており、$^{12}$COを中心に分子ガス観測も進められている(e.g., Wilson {\it et al.}, 2003)。
本発表では、これまでの研究を概観しながらNRO45mを用いて行われた$^{13}$CO({\it J}=1-0)輝線マッピング観測の結果を報告する。

大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッド N 体シミュレーションコードの開発

【日時】5月20日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】大粒子数を扱える惑星形成過程向けハイブリッド N 体シミュレーションコードの開発
【発表者(敬称略)】押野 翔一(総研大 D2 ・三鷹、指導教員 牧野淳一郎)
惑星形成の標準モデルは Safronov (1969) や Hayashi et al. (1985) で提案されたモデルが基になっている。その形成過程の中の微惑星衝突段階では、微惑星同士が衝突合体を繰り返すことで原始惑星に進化したと考えられている。この過程の研究には N 体計算が用いられており、暴走成長や寡占成長 (Kokubo & Ida 1998, 2000) といった形成過程が解明されている。
しかし、先行研究では粒子数が数万体、1 粒子当たりの質量が 10^23 g 程度のシミュレーションが行われておりこれより軽い微惑星の振る舞いについては良く分かっていない。また、扱える粒子数に制限があるため、殆ど全てのN 体計算は perfect accretionを仮定して行われてきた。
この仮定が、特に惑星成長の後期の過程で適切かどうかは明らかではない。
そこで本研究では粒子数を増やし高い質量分解能でのシミュレーションを行なえる計算コードを開発し、これらの未解決の問題を解決することを目標とする。
N 体計算は粒子数の 2 乗で計算量が増加する。また惑星形成の場合、微惑星の公転周期に比べ形成時間がはるかに長いため非常に長時間の積分が必要になる。
以上の理由により惑星形成過程向けの高速に計算できるコードが必要となる。
今回開発したコードでは大粒子数を扱うためにツリー法(Barnes & Hut 1986)を用いてN体計算の計算量をO(N log N)に減らしている。
また惑星形成の計算は衝突系のため近接遭遇を精度良く計算する必要がある。
そこでハイブリッド法 (Chambers 1999) を用いて近接遭遇した粒子間重力を取り出し、細かい時間刻みで積分することにより精度を保ちながら高速に計算する。
本発表では今回開発したコードのテスト計算の結果と今後の展望について述べる。

シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星からもたらされる流星雨の可能性と今後の展望

【日時】5月13日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星からもたらされる流星雨の可能性と今後の展望
【発表者(敬称略)】堀井 俊 (総研大D2・三鷹、指導教員 渡部 潤一)
流星群は、地球が彗星から放出された濃いダストのトレイルを横切るときに出現する。
2006年に回帰したシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann)の核は、少なくとも過去2回の回帰の間に多くの破片に分裂してきており、今までに50個以上の分裂核が検出されている(一説には大小合わせて154個のミニ彗星が検出されたとも言われている)。それに関連した濃いダストのトレイルが、スピッツァー宇宙望遠鏡による赤外観測で検出されているので、将来、これらが活発な流星群の活動を引き起こすことが大いに期待される。
実際、過去の事例を探ってみると、1842/1843年に分裂したビエラ彗星(3P/Biela)が、後にアンドロメダ座流星群(Andromedids)として、1時間あたり数万個という流星雨をもたらしたという記録が残っている。
そこで、我々はこのシュバスマン・ヴァハマン第3彗星に対して、いわゆるダスト・トレイル理論を適用し、この彗星がもたらしうる流星群が将来あるかどうか、その可能性を調べてみた。その結果、将来、いくつかのダストのトレイルが地球に非常に接近し、流星群の活発な活動の可能性があるということが分かった。
今回の発表では、この研究の途中経過と今後の展望について発表する。