【日時】10月7日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】Kinematics and Environments of starburst ring in NGC1097
【発表者(敬称略)】大井 渚 (総研大 D1・三鷹、指導教員 今西昌俊)
近年の研究から、大多数の銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在することがわかってきているが、その中のわずかな銀河は活動銀河核(AGN)を含んでいる。
AGNは宇宙空間において最も活動的な天体の一つであり、そのエネルギー源は、中心にある大質量の超巨大ブラックホールによる重力解放エネルギーであると考えられている。
しかし何故AGNを持つものと持たないものが存在するのか、またAGNから放射される膨大なるエネルギーをまかなう程の膨大なガスやダストを超巨大ブラックホールに効率的に落とし込むメカニズムについては未だ未解決問題として残されている。
NGC1097は近傍セイファート銀河(中心にAGNを持つ、近傍銀河で最も数の多い種族)の一つであり(14.5Mpc)、広輝線が観測されることから、Seyfert 1と分類されている。
その中心領域1kpcには、ガスやダストで形成されたring状の構造(starburst ring)が存在することが知られている。
また中心領域には高密度のガス($n_{H_2}>10^4{\rm cm}^{-2}$)が存在していることが、HCN(J=1-0), CO(J=1-0), CO(J=2-1)などの輝線による研究からわかってきた。
これほどの高密度ガスは、これまでSeyfert 2銀河でしか観測されておらず、AGNを取り巻くガス/ダストのドーナツ状の構造(トーラス)を高傾斜角から見込んでいる為だと考えられていたが、NGC1097はSeyfert 1銀河で初めて高密度ガスが見つかった天体である。
それ故、circumnuclear torusの候補と考えられるNGC1097のstarburst ringを調べることによって、AGNの燃料となるガスやダストの運動の状態やその環境を理解することができると考える。
そこで我々はハワイ島マウナケア山頂にあるSubmillimeter Array (SMA)によるCO(J=3-2)輝線の高空間分解能のデータを用いて、このstarburst ring内のガスの運動を調べ、また先行研究のCO(J=1-0), CO(J=2-1)のデータと比較することで、starburst ringの物理的状態を調べた。
本研究は7/1 – 8/31の期間に台湾の中央研究院(ASIAA)で行われたsummer student program内で行った。
本発表では、NGC1097のCO(J=3-2)の結果を報告すると共に、本プログラムの紹介も行う。
「コロキウム」カテゴリーアーカイブ
太陽観測衛星「ひので」データの局所的日震学解析
【日時】9月2日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】太陽観測衛星「ひので」データの局所的日震学解析
【発表者(敬称略)】長島 薫(総研大 D3・三鷹、指導教員 関井 隆
これまでの約2年半の博士課程での研究では、太陽表面振動の観測に基づいて太陽の内部構造を探る研究手法「日震学 (helioseismology) 」による太陽データ解析に取り組んできた。
その日震学の中でも特に注目してきたのは、黒点など太陽面上の特定の領域のローカルな表面下構造を探るのに適した手法「局所的日震学 (local helioseismology)」である。
この手法は、表面上の特定の二点間を波がどう伝わるか、例えば波の伝播距離と伝播時間の関係をもとに、その波の通った領域の物理的状態を探る方法である。
1960年代の「五分振動」の発見に端を発する、いわゆる「グローバルな」日震学は、太陽の固有振動の解析から太陽の大局的な内部構造(音速分布や自転角速度分布など)を調べるのに威力を発揮し、現在までの進展で太陽の内部構造モデルは非常に精密なものとなってきた。
これに対して、局所的日震学は1990年代以降に発展してきた比較的新しい分野である。
このため、実際に黒点の表面下構造を描き出すといった成果は出ているが、手法として確立してはいない部分があることも事実である。
今回のコロキウムでは、博士課程におけるこれまでの自身の日震学研究を簡単に振り返りながら、局所的日震学の問題点を議論し、局所的日震学の方法を「つめる」ために取り組んできた試み、たとえば振動シグナルの相互相関関数の統計的モデリング等について紹介したい。
低光度AGN M 87の電波コア位置周波数依存性の検証
【日時】7月15日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】低光度AGN M 87の電波コア位置周波数依存性の検証
【発表者(敬称略)】秦 和弘 (総研大 D1・三鷹、指導教員 川口則幸)
活動銀河核(AGN)は宇宙で最も激しい活動性を示す天体であり、その活動性の中心的役割を担っているのがブラックホール極近傍に形成される降着円盤である。
降着円盤はコンパクトな空間スケールゆえ未だ直接撮像には至っていないが、AGNの重力エネルギー駆動という根本的描像の実証、そしてジェット生成機構、角運動量輸送機構などの解明にとって直接撮像の意義は極めて大きい。
VSOP-2やサブミリ波VLBIといった次世代のVLBI技術では40マイクロ秒角という圧倒的な空間分解能を武器に降着円盤の直接撮像を目指す。
VSOP-2における円盤撮像ターゲットは低光度AGNと呼ばれる種族である。
低光度AGNは質量降着率が低いために円盤が光学的に薄く、幾何学的に厚い高温降着流(Radiatively-inefficient accretion flow; RIAF)状態になっていると考えられており、VLBIで検出可能な輝度温度の電波コアを持つ。更に近傍宇宙に数多く存在するためシュバルツシルト半径直近まで空間分解可能であり、まさに円盤撮像にとっては理想的な天体である。
しかしながら、観測される電波コアはRIAF成分とジェット成分の混合であることに注意する必要があり、ジェットからの寄与はRIAF成分を検出する上で大きな障壁となる可能性がある。
低光度AGNの電波コアがRIAF/ジェットのどちらに支配されているのか、この問題は長らく議論が続いているが、空間分解能以下のスケールで放射モデルが縮退しているために未だ決着していない。
そこで今回、電波コアの起源を特定するための1つの可能性としてコアシフトに注目した。
コアシフトとは、電波コアの位置が周波数によって変化する現象であり、指向性を持ったシンクロトロン放射源の光学的厚さが空間変化することによっておこると考えられている。すなわち、もし電波コアが指向性のあるジェット支配型ならばコアシフトは起こり、球対称に近い放射形状を持つRIAF支配型ならばコアシフトは起こらないはずである。
現在VLBAアーカイブデータを用いて試験的に近傍低光度AGN M87のコアシフトの有無を調べており、本講演ではその進捗状況について報告する。
Super Suprime-Cam で探る最遠方 QSO 周辺環境
【日時】7月8日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】Super Suprime-Cam で探る最遠方 QSO 周辺環境
【発表者(敬称略)】内海洋輔(総研大 D1・三鷹、指導教員 宮崎聡)
近年の観測によりz~6の高赤方偏移ですでに QSO が形成されていることが確認されている.
階層的構造形成モデルの枠組みでは,QSO のような非常に重い天体を形成するためにはその周囲がダークマターの密度超過領域であることが示唆される.
銀河は同様にダークマター中の密度超過領域で形成されると考えられているので,QSO 領域には個数密度超過が検出されることが期待される.
ところが,こうした高赤方偏移 QSO 領域の HST/ACS によるi-drop 銀河の観測では必ずしも密度超過があるとは確認されていない.
これの一つの可能性として QSO による数Mpcにわたる輻射フィードバックが QSO 周辺部の銀河形成が抑止されている可能性を示唆するが,HST/ACS の視野が 3.4’x3.4’(一辺~1Mpc/h)
と狭いために確認されていない.
そこで我々は34’x27’(一辺~10Mpc/h)の広視野をもつすばる望遠鏡主焦点カメラ Suprime-Cam を用いることにした.
さらに新 Super Suprime-Cam には 10,000nm を超える波長でも感度がある完全空乏型 CCD が搭載され,これまで困難であった z'(9,106nm)-z_R(9,881nm)を用いたz-drop 法が容易に可能となった.
z-drop は 6
GRAPE-DR による重力多体問題シミュレーションおよびLU 分解
【日時】7月1日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】GRAPE-DR による重力多体問題シミュレーションおよびLU 分解
【発表者(敬称略)】小池 邦昭(総研大 D3・三鷹、指導教員 牧野 淳一郎)
自己重力多体問題は球状星団や銀河などをモデル化する方法として強力な方法であるが、粒子数の増加によって相互作用の計算量が莫大になる。
このような問題を解決するために相互作用のみを高速に計算する専用計算機
GRAPE (Sugimoto et al. 1990)が開発されてきた。現在開発中のGRAPE-DRはプログラム可能な512個の小規模な演算器を1個の演算プロセッサに集積し、高性能化を実現する(J.Makino,2005)。
このため重力相互作用・SPH・Lennerd-Jones相互作用のようなさまざまな相互作用型のアプリケーションを実装することができる。また、演算器で動作させるプログラムを変更することで行列乗算などの応用も可能になる。
実際のハードウェアの構成としてはGRAPE-DRの演算ボード(GRAPE-DR Model 1800)は演算プロセッサ(SING)、制御プロセッサ、粒子データ用メモリを1ブロックとした4ブロックで構成されている。このうち制御プロセッサはホストPCと演算プロセッサのデータのやり取りの制御や演算プロセッサへの命令投入や粒子データメモリへの転送制御を担当する。制御プロセッサはFPGA(再構成型論理素子)としてボード上に実装されているのでボードが完成した後でもハードウェアの変更が可能になる。
このFPGA上で動作する演算プロセッサ用の制御回路を開発した。アクセラレータ部で動作する重力相互作用計算と行列積計算ライブラリを実装し、1ノードでの性能評価をおこなった。現在それぞれのライブラリについて最適化が進行中である。現状では重力相互作用計算では362.6GFlops($N=262144$)、行列積計算では635.1GFlops($M=N=32768,K=2048$)の演算性能となった。これを用いてLU分解のパッケージであるHigh Performance LINPACK(HPL)の加速を行い、演算性能値は284.3GFlops($N=34816,NB=2048$)となった。現状では通信部分の最適化が不十分である。性能向上に向けての方針についても議論する。