VLBI多周波アストロメトリによるM87相対論的ジェットの放射領域とブラックホールの位置関係の推定

【日時】5月12日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】秦 和弘(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 川口 則幸)
【タイトル】VLBI多周波アストロメトリによるM87相対論的ジェットの放射領域とブラックホールの位置関係の推定
活動銀河中心核(AGN)から生成される相対論的ジェットはAGNの活動性を特徴づける最も激しい現象であり、様々な高エネルギー現象の現場として電波からγ線にわたり古くから研究されている分野である。
しかしながら、しばしば観測される激しい時間変動は放射領域が極めてコンパクトであることを示唆しており、分解能の低い高エネルギー観測から空間分解によって直接現場の物理状態を検証することは極めて困難であるのが実情である。そこで鍵を握るのが圧倒的な空間分解能を有するVLBIであり、VLBI観測からAGNジェット最深部の物理的描像を直接的に構築していくことは高エネルギー放射機構などを解明する突破口になるであろう。
これらを踏まえ、現在我々は観測されるジェットの放射領域と中心エンジンであるブラックホールの位置関係を調べている。一般に、放射領域の”サイズ”は光度変動のタイムスケールから推定することが出来るが、”中心エンジンからの距離”を評価することは難しく、これまで放射領域とブラックホールの位置関係を観測的に検証した例は極めて少ない。Marscher et al.(2008)らはあるジェット天体をVLBI及び他波長で同時観測し、その放射領域は中心エンジンから1~10pcの場所で初めて起こるとする観測結果を得ているが、比較的遠方天体であったため未だその解釈には議論が続いている。
そこで我々は今回、最も近傍のジェット天体であるM87について、多周波アストロメトリという観点からこの問題に取り組んでいる。
M87は典型的なAGNに比べ約100倍リニアスケールで分解できる点で理想的である。今回のセミナーではその途中経過を報告する。