月別アーカイブ: 2009年6月

GRAPE-DR による重力多体問題シミュレーションおよびLU 分解

【日時】7月1日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】GRAPE-DR による重力多体問題シミュレーションおよびLU 分解
【発表者(敬称略)】小池 邦昭(総研大 D3・三鷹、指導教員 牧野 淳一郎)
自己重力多体問題は球状星団や銀河などをモデル化する方法として強力な方法であるが、粒子数の増加によって相互作用の計算量が莫大になる。
このような問題を解決するために相互作用のみを高速に計算する専用計算機
GRAPE (Sugimoto et al. 1990)が開発されてきた。現在開発中のGRAPE-DRはプログラム可能な512個の小規模な演算器を1個の演算プロセッサに集積し、高性能化を実現する(J.Makino,2005)。
このため重力相互作用・SPH・Lennerd-Jones相互作用のようなさまざまな相互作用型のアプリケーションを実装することができる。また、演算器で動作させるプログラムを変更することで行列乗算などの応用も可能になる。
実際のハードウェアの構成としてはGRAPE-DRの演算ボード(GRAPE-DR Model 1800)は演算プロセッサ(SING)、制御プロセッサ、粒子データ用メモリを1ブロックとした4ブロックで構成されている。このうち制御プロセッサはホストPCと演算プロセッサのデータのやり取りの制御や演算プロセッサへの命令投入や粒子データメモリへの転送制御を担当する。制御プロセッサはFPGA(再構成型論理素子)としてボード上に実装されているのでボードが完成した後でもハードウェアの変更が可能になる。
このFPGA上で動作する演算プロセッサ用の制御回路を開発した。アクセラレータ部で動作する重力相互作用計算と行列積計算ライブラリを実装し、1ノードでの性能評価をおこなった。現在それぞれのライブラリについて最適化が進行中である。現状では重力相互作用計算では362.6GFlops($N=262144$)、行列積計算では635.1GFlops($M=N=32768,K=2048$)の演算性能となった。これを用いてLU分解のパッケージであるHigh Performance LINPACK(HPL)の加速を行い、演算性能値は284.3GFlops($N=34816,NB=2048$)となった。現状では通信部分の最適化が不十分である。性能向上に向けての方針についても議論する。

超新星背景ニュートリノの検出率予測におけるニュートリノ温度依存性の検討

【日時】6月24日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】超新星背景ニュートリノの検出率予測におけるニュートリノ温度依存性の検討
【発表者(敬称略)】鈴木 重太朗(総研大 D2・三鷹、指導教員 梶野 敏貴)
 水チェレンコフ観測装置の測定効率の向上は、超新星背景ニュートリノ(以下SRN)の観測に一層の進歩をもたらしたと言える。
 重力崩壊型超新星の爆発の際には、そのエネルギーの99%をニュートリノが持ち去ると考えられており、その名残とも言えるSRNは、天の川銀河や宇宙論的距離にある系外銀河の時間進化に関する情報を蓄積していると考えられる物質の一つである。
 SRNに関するこれまでの理論的研究は、専ら大質量星の形成率を辿ることに焦点を当てており、それは近年の観測的宇宙論において、第1世代天体の形成過程を知るために着目されているものである。
 しかし、SRNのエネルギースペクトルには幾つかの不定性が含まれており、その不定性はSRN検出率の信頼性を揺るがせるほどのものである。
そのうちの一つは、重力崩壊型超新星におけるフレーバー毎のニュートリノ温度が分かっていないことである。
 本研究では、大質量星の形成率に関する最近の観測データを踏まえたうえで、超新星爆発におけるr-過程及び系元素における銀河化学進化(以下GCE)の観測結果を用いて、理論的計算における上記の不安定性を取り除く方法と、これを用いて算出した結果について発表する。

VLBI観測で探る銀河系棒状構造

【日時】6月17日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】VLBI観測で探る銀河系棒状構造
【発表者(敬称略)】松本尚子(総研大 D4・三鷹、指導教員 本間希樹)
 銀河系の棒状構造について過去の様々な観測や理論モデルからその存在が示唆されている。
棒状構造の長軸の向きは太陽から銀河中心方向に対して、20 °程度の傾き(ex. Binney et al. 1997; Dwek 1995) を持っているといわれ、CO分子ガスのPV図とモデルを照らし合わせた研究(ex. Bissanz et al. 2003)などからはNuclear ringや3kpc armなどの構造が示されており、大体の傾向は捉えられている。
しかし、絶対位置や3次元運動ではまだ捉えられてはおらず、不確定性も大きい。特に、ガスの運動については、3次元的にガスの固有運動を直接議論できるような観測はなされていない。
そこで、この銀河系棒状構造を対象に、VERA・JVNを用いた超長基線電波干渉計による高精度アストロメトリ観測を計画した。
この観測により、棒状構造を構成していると考えられるメーザー源の絶対位置・絶対3次元運動を捉えることを目標とする。
メーザー源の中でも、6.7GHz帯メタノールメーザー源は大質量星形成に付随し、系内のガスの運動をとらえることができる魅力的なツールであり、3kpc arm付近の天体を見るのに、天体数・fluxなどの観測条件を十分に備えている。
5月に新6.7GHz受信機がVERA全局配備され、7月からは6.7GHz帯VLBI観測が本格始動可能となった。
 銀河系の棒状構造を運動学的にとらえる本研究計画について、今回はSakamoto et al. 1999を用いたガスの非円運動成分の見積もりの結果をはじめ、新受信機の紹介、現在進行中のメタノールメーザー源の観測状況およびフリンジチェック観測の結果などについて報告し、絶対三次元固有運動計測の実現性について述べる。

星形成領域におけるAKARI赤外線観測(2)

【日時】6月10日(水) 11:00~12:30
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】星形成領域におけるAKARI赤外線観測(2)
【発表者(敬称略)】佐藤 八重子(総研大 D2・三鷹、指導教員 田村 元秀)
 2006年に打ち上げられたAKARIは、赤外線での全天サーベイを目的とした赤外天文衛星である。AKARIには2つの装置が搭載されており、近赤外線から遠赤外線(1.7~180 micron)の広い波長域で撮像・分光観測が行なわれ、多くの成果を残してきた。
 これまでに、我々は星形成グループのミッションとしてAKARIでの撮像観測を行なったが、その数は約200視野に及ぶ。これらの中から、星形成過程における個々の星周構造を研究していくために、今後は星のクラスターがあり、重い星を含まない領域について、統計的な議論を行なって行く予定である。O型星のような重い星を含まない中質量星形成領域では、原始星の進化は比較的遅いため、また大質量星による影響がないため、星周構造が残りやすいと考えられる。
 今回は、近赤外線(3,4micron)・中間赤外線(7,11micron)のデータを用いて、星形成領域GGD12ー15において解析を行なった。この天体は、これまでにIRSF/SIRIUSでの観測・解析を行ない、議論してきた。その結果もふまえ、2色図やSEDなどから得られる星周構造の有無についてやこの領域に属する若い天体について分類・議論していく。

天文科学専攻入試ガイダンス(関東)報告

5月30日、国立天文台で総研大ガイダンスが行われました。
残念ながらあいにくの雨でしたが、午前9時半、ちらほらと参加者が集まりはじめました。
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午前・午後に渡り3人の研究者の方によって、最先端の天文学についての講演が行われました。
今年は太陽観測衛星『ひので』、月周回衛星『かぐや』、そして巨大電波望遠鏡『アルマ』についての講演でした。
どれも、今が旬の話題ばかりです。

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