年別アーカイブ: 2009年

PICES project 及びCL0016に関する論文紹介

【日時】2月20日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】PICES project 及びCL0016に関する論文紹介
【発表者(敬称略)】山田 和範 (総研大 M1・三鷹、指導教員 児玉 忠恭)
 銀河団は宇宙におけるもっとも大きな構造である。力学的タイムスケールがHubble timeに匹敵するため、これらの系は未だ力学的成長を続けている。
コールドタークマターシナリオによると、小さい構造が衝突合体を繰り返すことで大規模構造を形成し、その集合のプロセスにおいて銀河は他の銀河などから環境効果を受ける。しかし、精力的な研究にもかかわらずこの環境効果の背景にある物理プロセスは未だ確定的には把握されないでいた。これまでは、望遠鏡の集光力が弱く、まだ、一度に観測できる視野も狭かったため、銀河団か一般フィールドのどちらかに焦点を定めており、これら2 つの環境を橋渡す領域に関しての知見はほぼ得られていなかった。
PISEC project はすばる望遠鏡の30′ をカバーするsuprime-cam を利用することで、銀河団中心に始まり、周辺構造を経て、一般フィールドまで一気に観測することが出来る。このプロジェクトではこの特性を利用し、様々な進化段階における遠方銀河団の詳細な観測、また、それらの物理量の詳細を比較することで、銀河団スケールの集合化、星形成史及び環境効果を扱う。
今回紹介する論文は、PICES project の構想と、その内の3 つの銀河についてをまとめ、更に、中でも最も豊富な銀河を持ち広大な構造を持つ銀河団であるCL0016 の分光観測について書かれたものである。これらの論文は修士論文で解析する予定であるデータの基となるものであるため今回紹介することにした。

炭素過剰金属欠乏星の化学組成解析

【日時】2月6日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】炭素過剰金属欠乏星の化学組成解析
【発表者(敬称略)】伊藤 紘子(総研大M1・三鷹、指導教員 青木 和光)
ビッグバン直後の宇宙には水素やヘリウムなどの軽元素しか存在しなかったが、その後生まれた星々によってさまざまな重元素が作られ、時間とともに重元素量が増えて現在のような宇宙が形成された。この進化過程は「宇宙の化学進化」と呼ばれるが、特に宇宙初期でどのように進化が進んだのか、また、そのきっかけとなる宇宙で最初に生まれた星がどのような星だったのかはまだ明らかにされていない。
このような問題にアプローチする手段として、我々は「金属欠乏星」の化学組成を調べて手がかりを得ようとしている。金属欠乏星とはその名のとおり、太陽に比べて金属量(鉄の量を指標とする)が極端に少ない星である。まだ重元素が少なかった宇宙初期に誕生し、現在も大気中に宇宙初期の化学組成を保持していると考えられている。
我々はすばる望遠鏡の可視高分散分光器HDS を用いて、[Fe/H]= -3.7(鉄が太陽の5千分の一しかない)の金属欠乏星を新たに発見し、化学組成を調べた。この星は9 等星でとても明るく、さらに進化の進んでいない準巨星であるため、宇宙初期の情報を多く引き出すことができる。
この星は鉄に対して炭素が異常に多い「炭素過剰金属欠乏星」である。なぜ炭素が過剰な金属欠乏星があるのかについてはいくつかの説が提案されているが、ここでは第一世代星の超新星爆発が最も有力な原因であることがわかった。
さらに、この星の明るさを生かして紫外域でも観測を行い、3130Åにあるラインからベリリウムの組成を調べたところ、これまで報告されている中で最も低いupperlimit が得られた。これは宇宙線による軽元素合成を探る手がかりになる。
コロキウムでは金属欠乏星の紹介を行い、観測と解析の結果、および今後の展望について述べる。

SIRPOLによる広視野赤外線偏光観測:大質量成形星領域NGC6334における磁場のねじれ

【日時】1月30日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】SIRPOLによる広視野赤外線偏光観測:大質量成形星領域NGC6334における磁場のねじれ
【発表者(敬称略)】橋本 淳(総研大D2・三鷹、指導教員 田村 元秀)
 星形成過程において一般的に知られている重力収縮は磁場に影響を受ける(もしくは与える) ことが知られている(e.g., Shu et al. 1987). オリオン大星雲においても、分子雲の収縮により磁場が砂時計型に曲げられることが観測的に確かめられている(Schleuning1998;Kusakabe et al. 2008).
しかしながら、磁場が星形成過程に与える影響について詳細に明らかになってはいない。一般的に回転している非対称な星間ダストは局所的な磁場によって磁場と垂直に整列することが知られており(Davis & Greenstein 1951),背景星の偏光観測を行うことは領域を貫く局所的な磁場を検出する有力な手段となる. 一方,Chandrasekhar & Fermi (1953) は得られた偏光角の分散とガス速度の分散から星間磁場の強度を見積もる方法を考案し, CF 法として知られている.
 本研究では, 南アフリカにある1.4mIRSF 望遠鏡に偏光撮像装置を取り付け, 比較的近傍にある(1.7kpc)大質量成形領域NGC6334 の近赤外線直線偏光観測を行なった.この領域には少なくとも7 つの大質量星形成サイトが様々な進化段階にあると考えられており,大局的な環境が同じであることから、系統的に大質量星形成と磁場の関係を明らかにすることが可能になる. 観測の結果,およそ2000 個の点源から偏光を検出することができ,
本領域における磁場がねじれていることが明らかになった.本研究ではおよそ180 arcmin^2をカバーしており,これまでの星形成領域における最も広い近赤外偏光観測の一つである.本講演ではNGC6334 における磁場の役割を議論し,これまでSIRPOL で得られた大質量成形領域の磁場の観測結果との比較を行う予定である.

星形成領域におけるAKARI赤外線観測

【日時】1月16日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】星形成領域におけるAKARI赤外線観測
【発表者(敬称略)】佐藤 八重子(総研大 D1・三鷹、指導教員 田村 元秀)
2006年に打ち上げられたAKARIは、赤外線での全天サーベイを目的とした赤外天文衛星である。AKARIには2つの装置が搭載されており、近赤外線から遠赤外線(1.7~180 micron)の広い波長域で撮像・分光観測が行なわれ、多くの成果を残してきた。
現在は冷却用のヘリウムがなくなり、近赤外線のみの観測を行なっている。
これまでに、我々は星形成グループのミッションとしてAKARIでの撮像観測を行ない、その数約200視野に及ぶ。これらにおいて、一次処理を行ない、測光解析を行なうための工夫を議論してきた。
星形成過程における個々の星周構造を研究していくために、星のクラスターがあり、重い星を含まない領域を数視野選んだ。
O型星のような重い星を含まないような中質量星形成領域では、原始星は比較的進化が遅いため、また大質量星による影響がないため、星周構造が残りやすいと考えられる。こういった領域で、クラスターとしてより多くの天体が検出されることで、より多くの星周構造を持つ天体を検出されると期待される。
近赤外線(3,4micron)・中間赤外線(7,11micron)のデータを用いて解析を行ない、各視野においてそれぞれ星の分類を行なっていった。
今回は、その1例として、IRSF/SIRIUSでの観測・解析を行なってきた星形成領域GGD12-15の解析結果を紹介する。