【日時】1月20日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】メタノールメーザー源を用いたアストロメトリと銀河系棒状構造
【発表者(敬称略)】松本尚子 (総研大 D2・三鷹、指導教員 本間希樹)
銀河系の棒状構造について過去の様々な観測や理論モデルからその存在が示唆されており、大体の傾向は捉えられている。
しかし、絶対位置や3次元運動を抑えた観測はこれからであり、不確定性が大きい。特に、ガスの運動については、3次元的にガスの固有運動を直接議論できるような観測はなされていない。
そこで、我々はこの銀河系棒状構造を対象に、VERA・JVNを用いた超長基線電波干渉計による高精度アストロメトリ観測を計画・遂行中である。
この観測により、棒状構造を構成していると考えられるメーザー源の絶対位置・絶対3次元運動を捉えることを目標とする。
メーザー源の中でも、6.7GHz帯メタノールメーザー源は大質量星形成のみに付随し、系内のガスの運動をとらえることができる魅力的なツールであり、3kpc arm付近の天体を見るのに、天体数・fluxなどの観測条件を十分に備えている。
現在VERAでは、これらのターゲットのフリンジチェック観測を終え、11月から本観測に乗り出している。
今回は、主にフリンジチェック観測結果の報告とVERA・JVNによる6.7GHz帯のメタノールメーザー源のアストロメトリ試験観測データの解析経過報告について紹介し、関連して、昨年シリーズで出版されたVLBAを用いた12GHzメタノールメーザー源のアストロメトリ観測関連の論文や銀河系N体シミュレーションの論文(Baba et al. 2009)についても少し触れる予定である。
「コロキウム」カテゴリーアーカイブ
DIB POPプロジェクト
【日時】1月6日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】DIB POPプロジェクト
【発表者(敬称略)】今瀬 佳介(総研大 M1・三鷹、指導教員 今西昌俊 )
DIBs(Diffuse Interstellar bands)は、可視光から近赤外の領域(4300\AA~1.3um)において観測される、幅の広がった吸収線の総称である。80年ほど前のMerrilによる最初の発見以来、現在確認されているDIBの総数は300以上にも上る。
DIBの大きな問題として、ほとんどのDIBでその吸収物質(DIBキャリア)の正体が解明されていない、ということがあげられる。現在ではその候補としてPAH、フラーレンといった有機化合物のような、巨大で複雑な構造をもった化合物が考えられている。
またどこにDIBが存在しているのか、ということも問題である。これまでにDIBの存在は、マゼラン星雲や近傍銀河、スターバースト銀河などのさまざまな方向の星間物質において確認されている。このように、DIBキャリアは宇宙に広く存在していると考えられているが、その物理的性質等もいまだ解明されていない。
現在近赤外線の領域において、9577/AAと9632/AAの2つの波長に存在するDIBは、そのキャリアの候補が挙がっている数少ないDIBである。この2つのDIBのキャリアはC60であると考えられているが、同時にC60がキャリアであれば存在が予測される波長域にDIBが検出されていない、という問題点もある。
しかし、9017,9210,9258/AAにおいて2009年にMisawa et al.がC60がキャリア候補であると考えられるDIBを発見しており、9577/AAと9632/AAの2つのDIBのキャリアがC60であることは確実であると考えられる。
そこで上述の2つのDIBに注目し、宇宙における生命の起源を探るべく理研の三澤氏、Poshak氏と総研大の院生によって2009年の夏にDIB POPプロジェクトを開始した。
このプロジェクトの狙いは、生命関連物質である有機化合物を宇宙空間において検出することである。
しかし、星間ガスの組成をそのまま地球上の生命の起源と直結させるのには飛躍があるため、太陽系の材料となった物質がガスとして存在する、惑星系円盤のような地球の化学組成が反映されていると考えられる領域において研究を行う。また同時に現在の少ないDIBサンプルに大量のDIBサンプルを提供するということも本プロジェクトの意義としてあげられる。
本講演では、DIBの概要およびDIB POPプロジェクトの進捗状況について報告する。
赤方偏移z~7クェーサー探査
【日時】1月6日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】赤方偏移z~7クェーサー探査
【発表者(敬称略)】石崎 剛史(総研大 M1・三鷹、指導教員 柏川伸成 )
宇宙はビッグバンによる誕生の後、宇宙空間中の水素原子核と電子の再結合が起こり,中性化した。
しかし, 現在 の宇宙空間はほぼ完全に電離されていることが知られている。
つまり、一度中性化した宇宙を再び電離する事象が 起こったことになる。
これを「宇宙の再電離」と呼び, 宇宙誕生後 10 億年以前に起こったことが分かっているが、具体的な時期やどのような天体が主に寄与したのかはよく分かっていない。
クェーサーは再電離に影響したと考えられている天体の一つであり、宇宙再電離領域に存在するクェーサーの個数密度から再電離への寄与度合いを見積もることができる。赤方偏移 z > 6.5 のクェーサーの発見は極めて重要であり、再電離期のクェーサー光度 関数に制限をかけることができる。
我々はすばる望遠鏡主焦点カメラ (Suprime-Cam) を用いて、UKIDSS DXS 領域に対して2009 年 6 月に 3 晩のサーベイを行った。
Suprime-Cam の CCD はアップグレードされ、波長 1 ミクロン付近の感 度が従来に比べ約 2 倍なり、観測効率が上がった。
観測に用いたフィルターは Zr、Zb (中心波長はそれぞれ9841A、8842A)の2バンドである。
Zr バン ドの測光データは、クエーサーと M/L/T 型晩期型星との区別に極めて有効である。
この観測データと UKIDSS の J バンドで撮像された画像データを用いて、z=7 付近のクェーサー候補を探す。
本発表では、z~7 の クェーサー候補の観測と解析状況を報告する。
シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星からもたらされる流星雨の可能性と今後の展望
【日時】12月2日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星からもたらされる流星雨の可能性と今後の展望
【発表者(敬称略)】堀井 俊 (総研大 D2・三鷹、指導教員 : 渡部 潤一)
流星群は、地球が彗星から放出された濃いダストのトレイルを横切るときに出現する。
2006年に回帰したシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann)の核は、少なくとも過去2回の回帰の間に多くの破片に分裂してきており、今までに50個以上の分裂核が検出されている(一説には大小合わせて154個のミニ彗星が検出されたとも言われている)。それに関連した濃いダストのトレイルが、スピッツァー宇宙望遠鏡による赤外観測で検出されているので、将来、これらが活発な流星群の活動を引き起こすことが大いに期待される。
実際、過去の事例を探ってみると、1842/1843年に分裂したビエラ彗星(3P/Biela)が、後にアンドロメダ座流星群(Andromedids)として、1時間あたり数万個という流星雨をもたらしたという記録が残っている。
そこで、我々はこのシュバスマン・ヴァハマン第3彗星に対して、いわゆるダスト・トレイル理論を適用し、この彗星がもたらしうる流星群が将来あるかどうか、その可能性を調べてみた。その結果、将来、いくつかのダストのトレイルが地球に非常に接近し、流星群の活発な活動の可能性があるということが分かった。
今回の発表では、この研究の途中経過と今後の展望について発表する。
超新星背景ニュートリノの検出率予測における星形成率およびニュートリノ温度依存性の検討
【日時】11月25日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】超新星背景ニュートリノの検出率予測における星形成率およびニュートリノ温度依存性の検討
【発表者(敬称略)】鈴木 重太朗(総研大 D2・三鷹、指導教員:梶野 敏貴)
近年中に大型の水チェレンコフ観測装置が稼働を開始する予定であるが、観測装置の大型化に伴う測定効率の向上は、超新星背景ニュートリノ(以下SRN)の観測に一層の進歩をもたらすものと期待される。
重力崩壊型超新星の爆発の際には、そのエネルギーの99%をニュートリノが持ち去ると考えられており、その名残とも言えるSRNは、天の川銀河や宇宙論的距離にある系外銀河の時間進化に関する情報を蓄積していると考えられる物質の一つである。
SRNに関するこれまでの理論的研究は、専ら大質量星の形成率を辿ることに焦点を当てており、それは近年の観測的宇宙論において、第1世代天体の形成過程を知るために着目されているものである。
しかし、SRNのエネルギースペクトル推定の根拠には幾つかの不定性が含まれており、これらの不定性は、大質量星の形成率が高い精度で見積もられても減ずることができないと考えられる。そのうちの一つは、重力崩壊型超新星におけるフレーバー毎のニュートリノ温度が分かっていないことである。
今回の発表では、大質量星の形成率に関する最近の観測データを踏まえたうえで、超新星爆発におけるr-過程等に関する数値計算の結果及び軽元素における銀河化学進化(以下GCE)の観測結果等を用いて、理論的計算における上記の不定性を減ずる方法と、これを用いて算出した結果、および今後の研究方針について述べる。