研究紹介」カテゴリーアーカイブ

銀河系棒状構造の運動学的検証に向けて

【日時】11月21日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】銀河系棒状構造の運動学的検証に向けて
【発表者(敬称略)】松本 尚子(総研大 ・三鷹D1、指導教員 本間 希樹)
銀河系のバルジおよび中心領域に関して、過去の可視光や近赤外の測光観測より、銀経方向に偏りのある輝度分布をしていることが知られており、三軸不等の棒状構造の存在が支持されている。その軸比は1:0.6:0.4 (Binney et al. 1997) などといわれている。また、棒状構造の長軸の向きは太陽から銀河中心方向に対して、20 °±10 °程度の傾き(cf. Binney et al. 1997; Dwek 1995) を持っているといわれている。これらの観測から、棒状構造の大体の傾向は捉えられているといえるが、不確定性は大きい。別のアプローチとして、銀河系中心およびバルジ領域中の晩期型星に付随するSiO メーザーのサーベイ観測が野辺山45m 電波望遠鏡によって多数行われている(cf. Izumiura et al. 1999; Deguchi et al. 2000,2004)。そして、SiO メーザー源の視線速度から、これらの天体が3kpc arm などをトレースしている可能性が示されている。他にも、OGLE-II やHST をはじめとする可視光や近赤外線望遠鏡によって、数年から数十年かけて星の天球面上の相対固有運動が測定されているが、領域や観測精度の制限が大きく、また、相対的な運動しか求められていない。したがって、銀河系棒状構造の運動学的な検証がすでに十分行われているとはいえない。
今回の発表では、銀河系棒状構造の運動学的検証のために我々が計画しているメーザー源を用いたVLBI 観測による絶対三次元固有運動測定の可能性と、現在の進捗状況・今後の展望について報告する。

低光度セイファート銀河における星形成活動の寄与

【日時】11月14日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】低光度セイファート銀河における星形成活動の寄与
【発表者(敬称略)】大井 渚(総研大 ・三鷹M2、指導教員 今西 昌俊)
活動銀河核(AGN) とは母銀河と同等がそれ以上のエネルギーを銀河中心から放射している天体で、輝線幅から2 つのタイプ(1 型,2 型)に分類されている。莫大なエネルギーを放つエンジンとして、中心に存在する超巨大ブラックホール(SMBH)による重力開放エネルギーが考えられている。しかし、物質を効率よく降着させるメカニズムについては未だ解明されていない。近年、中心付近で起こる爆発的星形成活動(SB)が強い影響を及ぼしている可能性があると考えられているが、SMBH からの放射が非常に強いためにその影響を調べることは困難であった。
これまでの研究から、近傍の高光度セイファート銀河においては、星間空間に広く分布する多環芳香族炭化水素(PAH) の輝線や星の大気に含まれるCO 分子の吸収帯を用いることで、星からの放射をAGNからの放射から分離し、AGN規模と中心部でのSB の規模に強い相関があることがわかっている。
そこで我々は、ハワイ島マウナケア山頂にあるNASA の望遠鏡IRTF/SpeXを用いて、LINER に近い低光度セイファート銀河8天体、先行研究でSB の影響が強いと思われる高光度セイファート銀河8天体について近赤外K,L-band 同時分光を行った。その結果、低光度セイファート銀河においてもSB 規模はAGN と良い相関を持っていることがわかった。
これはSB がAGN の活動に大きく影響を及ぼしていることを示唆している。
しかしCO 吸収から求めた星光度が、セイファート1型・2型銀河で大きく異なるという結果を得た。また2型セイファート銀河については、PAH輝線強度から見積もられた星光度に対し、CO 吸収から見積もられた星光度の方がはるかに大きいという結果となった。この結果から、PAH輝線とCO吸収帯は別のものを見ている可能性があることを示唆している。
本コロキウムでは、観測と解析の結果を報告し、これからの展望について発表する。

Tνを考慮したSupernova Relic Neutrinoの検出率について

【日時】11月7日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】Tνを考慮したSupernova Relic Neutrinoの検出率について
【発表者(敬称略)】鈴木 重太朗(総研大D1 ・三鷹、指導教員 梶野敏貴)
観測的宇宙論における最近の関心事の一つに大質量星の形成率があげられる。
大質量星の形成率を時間的に遡って調べるための手段としては、これまでに用いられてきた紫外線のほかに、最近のニュートリノ検出装置の性能向上により、2 型超新星爆発の際に多量に放出されるニュートリノ(SRN)のエネルギースペクトルを使って調べる方法が用いられ始めている。
但し、SRN を使って大質量星の形成率を調べる方法にはいくつかの問題点があり、その一つとしてニュートリノのフレーバー毎の温度が明らかになっていないことがあげられる。本研究では、軽元素に関する銀河化学進化(GCE) を用いて、SRN 検出率におけるニュートリノ温度由来の不確かさを取り除く方法を提案する。
具体的にはB(11)がType-2 超新星と宇宙線の両方によって合成されるのに対し、B(10) は宇宙線によってのみ合成されることを用いると、フレーバー毎のニュートリノ温度を推定することができ、SRN のエネルギースペクトルをより精密化することができると考えられる。今回の発表では、本研究の概要・手法および結果の一部について述べる。

重力相互作用の初期段階にある銀河ペアNGC4567/4568の観測的研究

【日時】10月31日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】重力相互作用の初期段階にある銀河ペアNGC4567/4568の観測的研究
【発表者(敬称略)】金子 紘之(総研大 D1・野辺山、指導教員 久野 成夫)
銀河間の重力相互作用は楕円銀河や高輝度赤外線銀河の形成といった銀河の進化、及び爆発的星形成やAGN に代表される銀河の活動性と密接な関連がある。また、初期宇宙に於ける銀河自体の形成にも大きな役割を担っていることが明らかになりつつあり、銀河間重力相互作用は銀河研究にとって重要な現象である。
相互作用をしている銀河(相互作用銀河) は一般の銀河に比べ遠赤外領域で強い放射が見られ、星形成活動が活発化していることが知られている(e.g., Soifer et al., 1984)。一方で、何故このような活発な星形成活動が引き起こされるかは未だ解明されていない。
これまでの研究から、(衝突・合体後ではなく) 相互作用中期の時点で劇的な星形成活動(スターバースト) の生じている天体が複数例報告されている。従って、星形成が活発化する原因を探るには、活発化前である相互作用の初期段階に於いて、星形成の材料である分子ガスに対し、相互作用が与える影響を明らかにすることが不可欠である。
数値計算によると星形成活動の活発化は、分子ガスが銀河中心に落ち込んで密度が増大することに伴う星形成効率の上昇が原因(e.g.,Barnes & Hernquist, 1996) とされている。
こうした背景もあり、今までのCO観測は比較的フラックスの強い銀河中心領域などの一部分に限定されて行われているものが大半であった(e.g., Zhu et al., 1999) 。その為、ガスの分布や運動構造に関する観測的な知見、そして各銀河の質量と言った基本的な物理量の情報でさえ得られていない。そのため、銀河中心のみならず相互作用銀河全領域をカバーする観測が求められる。
そこで我々は、野辺山45m 電波望遠鏡を用い、NGC 4567 とNGC 4568 の2 つの銀河からなる相互作用の初期段階にある銀河ペアの系全面に対して12CO(J = 1 – 0) 輝線のマッピング観測を行った。本コロキウムでは、この観測の詳細と得られた結果について議論し、今後の展望について発表する。

N体計算を用いた惑星形成過程の研究

【日時】10月24日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】N体計算を用いた惑星形成過程の研究
【発表者(敬称略)】押野 翔一(総研大D1 ・三鷹、指導教員 牧野淳一郎)
現在、惑星系は原始惑星系円盤と呼ばれる恒星の周囲にある円盤から生まれることが示唆されている。形成過程としては、まず円盤中のダストが凝縮し微惑星となり、その後微惑星同士が衝突合体して固体惑星やガス惑星のコアが出来たと考えられている。
しかし惑星形成理論にはいまだに分かっていないことも多く、理論と観測の両面から盛んに研究されている。
本研究ではN 体計算と言う手法を用いて重力相互作用を計算して微惑星の進化過程を明かにすることを目的としている。
惑星形成でN 体計算を用いる場合2 つの困難がある。
1 つは計算する微惑星の粒子数である。N 体計算は計算量が粒子数の2 乗に比例して大きくなる。そのため領域を広くとって計算しようとすると計算コストが高くなってしまう。
2 つ目は惑星形成時間の長さである。惑星の形成時間は惑星系円盤の寿命程度(10e6 年から10e7 年) かかると考えられている。
惑星の軌道周期はこれよりずっと短いために計算時間を長くとらなければならない。以上の理由により惑星系でのN 体計算には長い時間がかかる。
そのため現在研究に用いるためのN 体計算を高速に行うコード開発を行っている。今回のコロキウムではその現状について報告する。