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SIRPOLによる広視野赤外線偏光観測:大質量成形星領域NGC6334における磁場のねじれ

【日時】1月30日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】SIRPOLによる広視野赤外線偏光観測:大質量成形星領域NGC6334における磁場のねじれ
【発表者(敬称略)】橋本 淳(総研大D2・三鷹、指導教員 田村 元秀)
 星形成過程において一般的に知られている重力収縮は磁場に影響を受ける(もしくは与える) ことが知られている(e.g., Shu et al. 1987). オリオン大星雲においても、分子雲の収縮により磁場が砂時計型に曲げられることが観測的に確かめられている(Schleuning1998;Kusakabe et al. 2008).
しかしながら、磁場が星形成過程に与える影響について詳細に明らかになってはいない。一般的に回転している非対称な星間ダストは局所的な磁場によって磁場と垂直に整列することが知られており(Davis & Greenstein 1951),背景星の偏光観測を行うことは領域を貫く局所的な磁場を検出する有力な手段となる. 一方,Chandrasekhar & Fermi (1953) は得られた偏光角の分散とガス速度の分散から星間磁場の強度を見積もる方法を考案し, CF 法として知られている.
 本研究では, 南アフリカにある1.4mIRSF 望遠鏡に偏光撮像装置を取り付け, 比較的近傍にある(1.7kpc)大質量成形領域NGC6334 の近赤外線直線偏光観測を行なった.この領域には少なくとも7 つの大質量星形成サイトが様々な進化段階にあると考えられており,大局的な環境が同じであることから、系統的に大質量星形成と磁場の関係を明らかにすることが可能になる. 観測の結果,およそ2000 個の点源から偏光を検出することができ,
本領域における磁場がねじれていることが明らかになった.本研究ではおよそ180 arcmin^2をカバーしており,これまでの星形成領域における最も広い近赤外偏光観測の一つである.本講演ではNGC6334 における磁場の役割を議論し,これまでSIRPOL で得られた大質量成形領域の磁場の観測結果との比較を行う予定である.

星形成領域におけるAKARI赤外線観測

【日時】1月16日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】星形成領域におけるAKARI赤外線観測
【発表者(敬称略)】佐藤 八重子(総研大 D1・三鷹、指導教員 田村 元秀)
2006年に打ち上げられたAKARIは、赤外線での全天サーベイを目的とした赤外天文衛星である。AKARIには2つの装置が搭載されており、近赤外線から遠赤外線(1.7~180 micron)の広い波長域で撮像・分光観測が行なわれ、多くの成果を残してきた。
現在は冷却用のヘリウムがなくなり、近赤外線のみの観測を行なっている。
これまでに、我々は星形成グループのミッションとしてAKARIでの撮像観測を行ない、その数約200視野に及ぶ。これらにおいて、一次処理を行ない、測光解析を行なうための工夫を議論してきた。
星形成過程における個々の星周構造を研究していくために、星のクラスターがあり、重い星を含まない領域を数視野選んだ。
O型星のような重い星を含まないような中質量星形成領域では、原始星は比較的進化が遅いため、また大質量星による影響がないため、星周構造が残りやすいと考えられる。こういった領域で、クラスターとしてより多くの天体が検出されることで、より多くの星周構造を持つ天体を検出されると期待される。
近赤外線(3,4micron)・中間赤外線(7,11micron)のデータを用いて解析を行ない、各視野においてそれぞれ星の分類を行なっていった。
今回は、その1例として、IRSF/SIRIUSでの観測・解析を行なってきた星形成領域GGD12-15の解析結果を紹介する。

M型矮星の低周波数帯での電波観測について

【日時】12月19日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】M型矮星の低周波数帯での電波観測について
【発表者(敬称略)】小池 一隆(総研大D1 ・野辺山、指導教員 出口 修至)
これまでに恒星からの電波は、10 個程のM、L型星に対して4.8GHz や8.4GHz で検出されています。これら電波の放射機構としては、当初、その周波数や強度からgyrosynchrotron放射であると考えられていましたが、その後、100 %に近い円偏光度を持った電波放射が観測されると、新たにelectron-cyclotron maser 放射という考えが出てくるなど、現在のところ、まだ良く分かっていません。
これら2つの考えを選り分ける手段としては、MHz 帯での低周波数電波観測が考えられ、もし、electron-cyclotron maser 放射であるとすると、低周波(数十~数百MHz) においても強い電波放射が期待できます。
そこで、私たちは低周波電波源のカタログ(LVSS カタログ、74MHz)の中から低温矮星に同定できる低周波電波源があるのかどうか調査し、これら低温矮星の電波放射機構を解明したいと考えました。
そして、今年の6月にインドのプネーにあるGiant Metrewave Radio Telescope (GMRT)で2つの低温矮星について、240MHz の低周波数電波観測を行ってきましたので、今回はその結果について報告します。
また、先行研究において、電波放射をする低温矮星が光学観測でも増光することが確認されており、低温矮星の電波放射機構を調べる上でも、増光の有無を観測する必要性が指摘されています。
そこで、インドで観測した2天体のうちの1天体について、今年の5月に、東京大学の木曽観測所において、105cm シュミット望遠鏡を用いた光学観測も行っているため、その結果についてもお話ししたいと思います。

Signature of Chromospheric Downflows in Acoustic Travel-time Measurements from Hinode

【日時】12月5日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】Signature of Chromospheric Downflows in Acoustic Travel-time Measurements from Hinode
【発表者(敬称略)】長島 薫(総研大 D2・三鷹、指導教員 関井 隆)
We report on detection of chromospheric downflows in two emerging magnetic flux regions by time-distance helioseismology analysis. We use both chromospheric intensity oscillation data in Ca ii H line and photospheric Dopplergrams in Fe i 557.6nm line observed by Solar Optical Telescope (SOT) onboard Hinode for our analyses. By crosscorrelating oscillation signals, we have detected a travel-time anomaly in these emergingflux regions; outward travel time is about a half minute shorter than inward travel time in the Ca ii H data but not in the Fe i data. This can be interpreted as a signature of downflows in chromosphere.
The downflow speed is estimated at ~ 8 km/s, which is consistent with the typical picture of emerging-flux regions. This result demonstrates a new possibility of studying chromospheric flows by time-distance analysis.

準汎用並列計算機GRAPE-DR用制御プロセッサの開発および性能評価

【日時】11月28日(金) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 北研1階講義室
【タイトル】準汎用並列計算機GRAPE-DR用制御プロセッサの開発および性能評価
【発表者(敬称略)】小池 邦昭(総研大D2 ・三鷹、指導教員 牧野 淳一郎)
 自己重力多体問題は球状星団や銀河などをモデル化する方法として有力な手段である。重力相互作用は無限大の到達距離をもっているためにすべての質点にかかる重力を計算する必要がある。この相互作用の計算量は粒子数の2 乗に比例するために多大な時間を要していた。このような問題を解決するため、重力の計算のみを高速に計算できる専用計算機GRAPE-1が開発された(Sugimoto.et.al,1990)。
 このGRAPE-1から6までのGRAPE型の計算機の特長はパイプライン構造の専用回路を多数並列化することで高性能化を実現している。それに対して現在開発中のGRAPEDRはプログラム可能な512個の小規模な演算器を1個の演算プロセッサに集積する方法を
とっている(Makino,2005)。このためGRAPE-DRは演算プロセッサを制御するための制御回路が別途必要になる。本研究ではこの制御プロセッサの実装を行い、重力相互作用の計算を実機で行い性能評価を行った。現時点では重力相互作用では1ボードあたり420Gflops の処理性能が実現されている。最適化は今後の課題である。
 またGRAPE-DR では演算器のプログラムを変更して密行列の計算を高速化することにより大規模な連立1次方程式を解くことが可能になっている。
密行列用に最適化された制御回路を用いて、並列LU分解用ソフトウェアであるHigh Performance Linpack(Petiet.et.al,2004)を高速化した。
 発表では重力相互作用およびLU 分解の高速化に関する性能評価結果について発表し、今後の展望について述べる。