研究紹介」カテゴリーアーカイブ

M型矮星に対する低周波電波観測の結果について

【日時】6月16日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】小池 一隆(総研大 D3・野辺山、指導教員 : 出口 修至)
【タイトル】M型矮星に対する低周波電波観測の結果について
M型矮星は、恒星の中でも特に表面温度の低い星(<3900 K)です。 このような低温矮星に関する詳しい研究は、始められてまだ10年ほどしか経っておらず、電波での研究は、近年ようやく観測が行われるようになり、議論されはじめたところです。 低温矮星からの電波は、これまでに十数個程のM、L型星に対して4.8GHzや8.4GHzで検出されています。 これら電波の放射機構としては、当初、その周波数や激しい強度変動からgyrosynchrotron 放射であると考えられてきましたが、その後、100%に近い円偏光度を持った電波放射が観測されると、新たに electron-cyclotron maser 放射という放射機構が提案され、さらに今日では、そういった変動の見られない定常的な電波放射も観測されるなど、複数の放射機構が存在すると考えられています。 そこで私たちは、他の低温矮星についても電波観測を行い、いずれの放射機構が多数を占めるのか、また新たな特徴を持った電波放射は見られないか、調査することにしました。 本発表では、昨年の6月にインドのGiant Metrewave Radio Telescope (GMRT)を用いて行ったM型矮星の電波観測結果について報告します。 この観測では、近くにM型矮星が見られる電波源(FIRST天体、1400MHz)8天体について、3つの低周波数(1400、610、240MHz)で観測を行いました。

超新星背景ニュートリノ検出率予測のニュートリノ温度依存性について

【日時】6月9日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】鈴木 重太朗(総研大 D3・三鷹、指導教員 : 梶野 敏貴)
【タイトル】超新星背景ニュートリノ検出率予測のニュートリノ温度依存性について
重力崩壊型超新星爆発の際には、多量のニュートリノが発生して束縛エネルギーの大半を持ち去ると考えられている。また、ニュートリノは他の物質との反応性が極めて乏しいことから、過去の超新星爆発の際に発生したニュートリノが現在でも宇宙空間に存在していると考えられており、近年中に稼動を始める見込みの大型の水チェレンコフ検出器を用いれば、これらの持つ情報を解析することが出来る可能性があり、超新星爆発やニュートリノ自体についての研究に大きく寄与すると考えられる。
但し、超新星背景ニュートリノの検出率に関しては幾つかの不定性が指摘されており、そのなかでも検出率及びエネルギースペクトルに大きく影響を及ぼす要素として、超新星内部のニュートリノ温度が明らかになっていないことがあげられる。
そこで、本研究では、超新星元素合成と銀河化学進化モデルを元にニュートリノ温度をフレーバーごとに分けて推定することで、このような不定性を減じ、ニュートリノ検出率及びそのエネルギースペクトルをこれまでより精密に予測する方法を提案する。
今回の発表では、研究の概要と結果のうち、前回発表以降に進展した部分を中心に報告する。

銀河間重力相互作用が分子ガスに与える影響について

【日時】5月26日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】金子 紘之(総研大 D3・野辺山、指導教員 : 久野 成夫)
【タイトル】銀河間重力相互作用が分子ガスに与える影響について
銀河同士の近接相互作用(衝突、合体)現象を起こしている天体、相互作用銀河は銀河の進化に対して重要な役割を持つ。
例えば、渦巻銀河から楕円銀河へと進化や、高輝度赤外線銀河(ULIRGs)の発現にもこれら相互作用銀河が影響しているといわれている。
相互作用銀河の特筆すべき性質の一つに爆発的な星形成があげられる。
数値計算によって、多くの研究が進められており、いくつかのメカニズムが提唱されている。
しかしながら、星形成の直接の母体である分子ガスに関する今までの観測は、装置的、時間的資源の制限からその殆どがごく限られた領域で行われているに過ぎず、星形成が活発化していく過程を理解するには不十分である。
爆発的星形成の前段階である相互作用初期~中期の天体に対して系の内部を分解して観測し相互作用が分子ガスに与える影響を詳細に調べることは爆発的星形成のメカニズムを明らかにする上で非常に重要である。
そこで我々は、野辺山45m電波望遠鏡を用いて、比較的近傍にあるいくつかの相互作用初期~中期と目される相互作用銀河に対して12CO(1-0)輝線マッピング観測を続けてきた。
本発表では、この観測結果を中心に報告する。

惑星形成過程にガス抵抗があたえる影響について

【日時】5月19日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】押野 翔一 (総研大 D3 ・三鷹、指導教員 : 牧野 淳一郎)
【タイトル】惑星形成過程にガス抵抗があたえる影響について
太陽系形成の標準モデルによると、惑星系は水素、ヘリウムなどのガスが質量の約99%をしめ、残りがダストで構成されている原始惑星系円盤から形成される。
円盤中のダストから微惑星ができ、その後微惑星同士が衝突合体することにより現在の岩石惑星及びガス惑星のコアが形成されたと考えられている。
この段階の形成過程では、微惑星どうしの重力相互作用によって微惑星は集積しているためN体シミュレーションを用いた研究が多く行われている。
先行研究で行われているN体シミュレーションでは計算量の問題から一つの微惑星の質量が10の23乗gの初期条件が用いられている。
一方、重力不安定説によれば原始惑星系円盤中に存在するダストから形成される微惑星の質量は不安定の波長内のダスト質量となるため、太陽系標準円盤の面密度を仮定すると、重力不安定によって形成される初期の微惑星の質量はより小さい可能性がある。
微惑星は円盤内のガスから抵抗を受けるが、この効果は小さい粒子ほど相対的に重力にたいするガス抵抗の影響が大きくなる。そのためより小さい微惑星の初期条件を用いてガス抵抗が惑星形成過程にどう影響するか調べる必要がある。
本発表では現在行っているガス抵抗を考慮したN体シミュレーションについて報告する。

VLBI多周波アストロメトリによるM87相対論的ジェットの放射領域とブラックホールの位置関係の推定

【日時】5月12日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】秦 和弘(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 川口 則幸)
【タイトル】VLBI多周波アストロメトリによるM87相対論的ジェットの放射領域とブラックホールの位置関係の推定
活動銀河中心核(AGN)から生成される相対論的ジェットはAGNの活動性を特徴づける最も激しい現象であり、様々な高エネルギー現象の現場として電波からγ線にわたり古くから研究されている分野である。
しかしながら、しばしば観測される激しい時間変動は放射領域が極めてコンパクトであることを示唆しており、分解能の低い高エネルギー観測から空間分解によって直接現場の物理状態を検証することは極めて困難であるのが実情である。そこで鍵を握るのが圧倒的な空間分解能を有するVLBIであり、VLBI観測からAGNジェット最深部の物理的描像を直接的に構築していくことは高エネルギー放射機構などを解明する突破口になるであろう。
これらを踏まえ、現在我々は観測されるジェットの放射領域と中心エンジンであるブラックホールの位置関係を調べている。一般に、放射領域の”サイズ”は光度変動のタイムスケールから推定することが出来るが、”中心エンジンからの距離”を評価することは難しく、これまで放射領域とブラックホールの位置関係を観測的に検証した例は極めて少ない。Marscher et al.(2008)らはあるジェット天体をVLBI及び他波長で同時観測し、その放射領域は中心エンジンから1~10pcの場所で初めて起こるとする観測結果を得ているが、比較的遠方天体であったため未だその解釈には議論が続いている。
そこで我々は今回、最も近傍のジェット天体であるM87について、多周波アストロメトリという観点からこの問題に取り組んでいる。
M87は典型的なAGNに比べ約100倍リニアスケールで分解できる点で理想的である。今回のセミナーではその途中経過を報告する。