【日時】11月16日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】佐古 伸治(総研大 D1・三鷹、指導教員 : 渡邊 鉄哉
【タイトル】
Statistical study of transient active phenomenon around polar corona using Hinode/XRT.
【アブストラクト】
我々が観測できる太陽大気の内、最外層である太陽コロナはさまざまなスケールを持つ爆発現象が発生している。その中でも短寿命な活動現象は、流れを伴うX線ジェットや単純な増光現象であるトランジェントブライトニングがあげられる。これらの短寿命活動現象は、太陽観測衛星「ようこう」の観測から、太陽コロナで生じる磁気リコネクションによって発生すると考えられるようになった。
「ようこう」衛星に搭載された軟X線望遠鏡で撮像された太陽全面強度画像からX線ジェットを検出した結果、コロナホールは10%程度と他の領域よりも低いことが報告されている。コロナホールは極域に分布しやすいため、太陽極域が活動の低い領域と考えられるようになった。2006年から太陽観測衛星「ひので」が打ちあがり、高分解能観測で緯度勾配の強い極域の現象も詳細に観測できるようになった。「ひので」衛星に搭載されたX線望遠鏡の観測結果から、太陽極域コロナホールではX線ジェットが頻繁に発生しておりいることが示され、「ようこう」衛星のときの解釈と異なる見解であった。
本研究の最終目的は、短寿命活動現象の磁気リコネクションによるエネルギー解放過程を詳細に研究することである。このエネルギー解放過程は周囲の磁場環境によって変化することが考えられる。そのため、それぞれ異なる磁場構造を持つ領域で発生した短寿命活動現象の違いを調べる必要がある。特に、活動が高いことが明らかになった極域に含まれるコロナホール・静穏領域の異なる磁場構造をもつ領域で発生する短寿命活動現象の特徴を比較した研究はない。今回、「ひので」衛星のX線望遠鏡で撮像されたコロナホール、静穏領域を含む極域周辺及び緯度の異なる赤道域静穏領域のそれぞれのX線強度画像からX線ジェット、ブライトニングを検出し、磁場構造の違いが短寿命活動現象の特徴に現れるかどうかを調べた。その結果、X線ジェットは、コロナホール・静穏領域よりもコロナホール境界のほうが発生頻度が高く、トランジェントブライトニングの発生頻度は、コロナホールよりもコロナホール境界・静穏領域のほうが高いことがそれぞれわかった。今回のコロキウムでは、検出したX線ジェット及びトランジェントブライトニングの特徴に関する統計的結果を報告し、主にその発生頻度の違いを考察していく。
「コロキウム」カテゴリーアーカイブ
Multi-Object and long-slit spectroscopy of very low mass brown dwarfs in Orion Nebular Cluster
【日時】11月8日(水) 10:30~12:00【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】末永 拓也(総研大D1・三鷹、指導教員 : 田村 元秀)
【タイトル】Multi-Object and long-slit spectroscopy of very low mass brown dwarfs in Orion Nebular Cluster
【アブストラクト】
初期質量関数(Initial Mass Fucntion)は星形成理論で説明されるべきもっとも重要な観測量の一つである。
この関数は、Salpter(1955)によって提唱されて以来長きにわたって研究がなされてきており、
太陽質量付近では比較的よくその描像が分かってきているが、大質量側・低質量側の両端では
まだよく分かっていない。本研究ではその低質量側を詳細に調べることを目的としている。
低質量側のうち80木星質量以下を構成する天体を褐色矮星という。
褐色矮星は非常に低温で内部で定常的に核融合反応を起こすことができないので、年齢ともに冷えて暗くなってしまう。そこでそのような天体が非常に若く明るく存在している領域である星形成領域で初期質量関数の低質量側の研究が進められている。
私たちはそのうち、非常に有名な大質量星形成領域であるオリオン大星雲において分光観測を行ってきている。
オリオン大星雲は比較的近傍で星が密集して存在しているため初期質量関数の研究には最適である。
観測はすばる望遠鏡に搭載された多天体分光器MOIRCSと、岡山観測所の近赤外分光装置であるISLEを用いて、
14天体の褐色矮星候補天体に対して行われた。
解析の結果9天体が褐色矮星質量をもつことが分かり、そのうち2天体は本研究で初めてその分光質量が求められた。
本発表では以上のようにこれまで行ってきた研究の内容を説明し、
最後に先行研究を含めてオリオン大星雲の初期質量関数について言及する予定である。
Linear and circular imaging polarimetry of the Chamaeleon infrared nebula
【日時】11月2日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】Kwon Jungmi(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 田村 元秀)
【タイトル】Linear and circular imaging polarimetry of the Chamaeleon infrared nebula
ABSTRACT ( Gledhill et al. 1996 )
We present linear and circular imaging polarimetry observations of the Chamaeleon infrared nebula, a bipolar reflection nebula in the Chamaeleon I dark cloud, at near-infrared (JHKn) wavelengths.
These are amongst the first imaging circular polarimetry results for a star-forming region. The detection of both high degrees of linear polarization and a significant degree of circular polarization in the extended nebulosity allows us to comment on the scattering geometry and the range of particle sizes present.
We develop a model incorporating a polarized source which can successfully account for the observed linear and circular polarimetry and for the asymmetries in nebular brightness (the ‘bright rim’ structures) seen in this and other objects (e.g., NGC 2261/R Mon). In order to do so, the model requires a non-axisymmetric illumination of the nebula, and we discuss possible origins for this asymmetry, including disruption of a circumstellar disc by binary protostars.
High-z QSO survey at z ~ 6 and 7 with Suprime-Cam
【日時】10月26日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】石崎 剛史(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 柏川 伸成
【タイトル】High-z QSO survey at z ~ 6 and 7 with Suprime-Cam
【アブストラクト】
宇宙はビッグバンによる誕生の後、宇宙空間中の水素原子核と電子の再結合が起こり中性化した。しかし,現在の宇宙空間はほぼ完全に電離されていることが知られている。これを「宇宙の再電離」と呼び, 宇宙誕生後 10億年以前に起こったことが分かっているが、具体的な時期やどのような天体が主に寄与したのかはよく分かっていない。クェーサーは再電離に影響したと考えられている天体の一つであり、宇宙再電離領域に存在するクェーサーの個数密度から再電離への寄与度合いを見積もることができる。赤方偏移 z > 6.5 のクェーサーの発見は極めて重要であり、再電離期のクェーサー光度関数に制限をかけることができる。また、z~7クェーサーの個数密度は初期巨大ブラックホールの形成モデルにも強い制限を与える。
我々はすばる望遠鏡主焦点カメラ (Suprime-Cam) を用いてUKIDSS DXS 領域に対して2009年6月に 3晩のサーベイを行った。Suprime-Cam の CCD はアップグレードされ、波長 1 ミクロン付近の感度が従来に比べ約 2倍なり観測効率が上がった。観測に用いたフィルターは zR、zB の2バンドである。zR バンドの測光データは、クエーサーと M/L/T型晩期型星との区別に極めて有効である。この観測データと UKIDSS J バンドで撮像された画像データを用いて、z~7のクェーサー候補を探す。
本発表では、z>6.5のクェーサー探査の近況を報告する。
VERAを用いた銀河系外縁部回転曲線プロジェクト
【日時】10月19日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】坂井 伸行(総研大 D1・三鷹、指導教員 : 本間 希樹)
【タイトル】VERAを用いた銀河系外縁部回転曲線プロジェクト
アブストラクト
(目的)
距離の不定性により未だ明らかでない銀河系の質量分布を観測的に明らかにし、銀河系の力学と構造の理解を深めたい。
(方法)
VERAを用いたVLBI観測により距離の不定性を克服する事が出来る。VERAは目標位置精度10マイクロ秒角を有し、10kpcの距離を10%のエラーで測定する事が可能である。
一般的に質量を見積もるツールとしては距離の関数である回転曲線が良く使われる。VERAを用いて銀河系の回転曲線を高精度に構築し、質量分布を高精度に求めて行く。
(結果)
2009年10月よりVLBI観測を始め、プレリミナリーなものも含めると4天体の年周視差測定に成功した。
特に本発表では、IRAS 05168+3634と言う天体の年周視差(距離)と固有運動測定の詳細を報告する。
この天体について、(π、μαcosδ, μδ)=(0.537 +/-0.038 mas, 0.23+/-1.07, -3.14+/-0.28 mas/yr)の測定に成功し、過去の研究では6.08kpc(Molinari et al. 1996)と求められていた運動学的距離よりも、三倍以上近い結果を得た。
(議論)
特に以下の2点に絞って議論を行う。
(i)IRAS05168の距離の妥当性
本研究の結果により、この天体の物理量はTable(下記)の様に変化する。
我々の結果は、IRAS05168の力学質量とLTE質量との比(α)が0.7と、過去知られていた0.2よりも1に近い値を示す。これはディスクの分子雲が概ね力学平衡にある(α~1)と言う過去の研究を考えると、妥当な結果と言える。
(ii)ペルセウスアームの特異運動
IRAS05168は我々の観測で、アウターアームではなくペルセウスアームに位置する事が分った。
また円運動からのズレ(特異運動)を考察すると、過去のVLBI観測で測られたペルセウスアームの天体と傾向が一致する事が分った。具体的には、銀河中心方向に向かい、かつ銀河回転から遅れる運動である。
この様な傾向は過去の研究でも指摘されていて、例えばRusseil et al. (2007)では測光学的距離を用いる事で同様の議論をするのみならず、密度波理論との比較・見当も行っている。我々のVLBI観測でもRusseil et al. (2007)と同様な手法で、共回転半径(CR)を12.6kpcと求める事に成功した。
この値はRusseil et al. (2007)で得られたCR=12.7kpcには極めて近いが、一般的なCRの値として知られている太陽近傍の値(CR~9kpc)とは一致しない。
上記の内容に加え、時間が許せば、現状の問題点と今後の展望、更には本研究のインパクト
などについて発表します。