研究紹介」カテゴリーアーカイブ

Molecular Gas Property and Star Formation in the Interacting Galaxies

【日時】4月13日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】金子 紘之(総研大 D3・野辺山、指導教員 : 久野 成夫)
【タイトル】Molecular Gas Property and Star Formation in the Interacting Galaxies
銀河は大きな固有速度を持って運動しているため、頻繁に他の銀河 と重力相互作用を起こす。
特に近接相互作用(衝突、合体)を起こすとき、その形状や運動は大きく変化し、銀河の進化に大きな影響を及ぼす。
例えば、銀河の多様性や、高輝度赤外線銀河(ULIRGs)の発現にも相互作用銀河と呼ばれるこのような天体が影響しているといわれて いる。
相互作用銀河の特筆すべき性質の一つに爆発的な星形成活動があげ られる。
1970年代後半以降の観測によって、衝突の進行につれて星形成が活発化していくことが明らかになった。
この現象は数値計算によって多くの研究が進められており、いくつ かのメカニズムが提唱されている。
しかしながら、星形成の直接の母体である分子ガスに関する今まで の観測は、装置的、時間的資源の制限からその殆どがごく限られた領域で行わ れているに過ぎず、星形成が活発化する過程の理解は不十分である。
爆発的星形成の前段階である相互作用初期~中期の天体に対して系の内部を分解して観測し相互作用が分子ガスに与える影響を詳細 に調べることは爆発的星形成のメカニズムを明らかにする上で非常に重要である。
そこで我々は野辺山45m電波望遠鏡を用いて、比較的近傍にあるいくつかの相互作用初期~中期と目される相互作 用銀河に対して12CO(1-0)輝線マッピング観測を続けてきた。
この結果、4天体から十分なS/Nでデータを取得でき、総質量や分布といった基礎的な、しかしこれまであまり得られていない情報を得た。
更に、野辺山COアトラスとの比較から通常銀河との分子ガス状態の違いの議論も可能となった。
今回のコロキウムでは、相互作用銀河における分子ガスの大局的、局所的性質を中心に議論していく。

Protocluster at z ~ 6 in SDF

【日時】2月2日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】利川 潤(総研大 M1・三鷹、指導教員 : 柏川 伸成)
【タイトル】Protocluster at z ~ 6 in SDF
原始銀河団とは遠方宇宙において銀河の数密度が高い領域を意味し、銀河団の形成途中であると予想できる領域である。
銀河が高密度領域に存在するか、低密度領域に存在するかで銀河の進化は大きく異なることから銀河進化の観点からも原始銀河団は非常に重要である。これまでの原始銀河団の発見の
多くはクエーサーや電波銀河のような天体をプローブとして行われてきた。
私達はSubaru Deep Field(SDF)においてi’-dropout 天体の探査を行ったところ、その数密度が極めて高い領域を発見した。
深い撮像データであるのはもちろん、すばる望遠鏡の広視野を活用することで、非常に稀な天体であるz~6の原始銀河団と考えられる高密度領域を発見できた。
可視のB、V 、Rc、i’、z’バンド、さらに近赤外のJ バンドの撮像データを用いた。特にi’、z’バンドの限界等級はそれぞれ27.72、27.09(3σ、2″ 、AB)という深い撮像データなので、SDF 全体で258 個ものi’-dropout天体を検出できた。この258 個の天体について数密度を求めると、有意に高密度な領域が一つ存在した。
その領域の数密度の有意性は最大で6σにも達し、3σ以上の領域もおよそ10Mpc 四方の広さであった。そして3σ以上の領域に含まれるi’-dropout 天体の数は21 個であった。
この高密度領域を中心に分光観測を行ったところ3次元的にも集中していることが分かった。このことからこの領域が原始銀河団である可能性が高い。さらに特異的な3次元分布を持つことも分かり、このことについても議論する。

VLBI多周波位置天文計測による相対論的ジェット天体M87の中心エンジン位置の推定

【日時】1月26日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】秦 和弘(総研大 D2・三鷹、指導教員 : 川口 則幸)
【タイトル】VLBI多周波位置天文計測による相対論的ジェット天体M87の中心エンジン位置の推定
アブスト:
活動銀河中心核(AGN)で観測される相対論的ジェットは宇宙最大の高エネルギー現象である。ジェットは巨大ブラックホールと降着円盤からなる”中心エンジン”から駆動され、電波~γ線に渡って莫大な放射を解放する。その形成機構や放射機構には今なお多くの謎が残されており、これらの解明は宇宙物理学における最重要課題の1つである。
おとめ座銀河団の中心部に位置する巨大電波銀河M87はこれらの問題を探るキーソースとして長年精力的に研究が行われている。その近さ(16.7Mpc)と大きなBH質量(6×10^9Msun)故、VLBI観測によって~100シュバルツシルト半径(Rs)という圧倒的な空間スケールで構造が分解されている。
しかしながら、最も根本的かつ重要な情報である中心エンジンの”位置”は未だ明らかでない。一般に、VLBI画像に映るジェット根元の高輝度領域”電波コア”は中心エンジンの位置に対応していない。ジェット中のシンクロトロン放射の光学的厚さ~1の表面に対応する。実際、幾つかのAGNジェットでは電波コアから10^4~10^6Rs以上も離れた領域に中心エンジンが位置するという主張がある。
そこで本研究ではM87の中心エンジン位置を突き止めるため、電波コアのコアシフト現象に着目した。コアシフトとは、コアが光学的厚み~1 の領域に対応する場合、高周波で観測されるコアほど上流側に位置がずれる現象である。その周波数依存性を精密に調べることで、中心エンジン位置を推定することができる。
これらを踏まえ、2010年4月にVLBAを用いて2~43GHzで多周波位置天文観測を実施した。その結果、M87の中心エンジンは43GHz 電波コアからわずか20Rs程度しか離れていない場所に存在することが明らかになった。
これは他のジェットで提唱されるコア-エンジン間距離に比べ100倍以上も小さい。
本結果は、43GHzのunresolved regionの中にBH質量降着及びジェット生成の現場をとらえ始めていること示唆している。

Can ULIRG evolve into QSO?

【日時】1月5日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】大井 渚(総研大 D2・ハワイ、指導教員 : 今西 昌俊)
【タイトル】Can ULIRG evolve into QSO?
近年の研究から、活動銀河核(AGN)とその母銀河は共進化してきたと考えられており、銀河形成を理解するのに重要であるAGNの中で最も明るい(L_opt>10^12Lsun)QSOは非活動的な銀河と比べて1桁重い~10^8Msun程度の質量の超巨大ブラックホール(SMBH)をもっていることが観測からわかってきている。
gas-rich mergerで形成可能であるというシミュレーション結果もあるが、その形成過程の詳細については未だわかっていない。
超高光度赤外線銀河(ULIRG)はQSOと同程度のエネルギーを赤外線領域で放っている(L_IR>10^12Lsun)天体である。多波長の観測から、ULIRGの多くがgas-rich mergerの最終段階にあるとわかってきており、ガスが晴れ上がった後にQSOに進化する可能性がある天体と考えられている。
これまで可視光観測や浅い近赤外のデータ、また数が限られたサンプルに対して研究が行われてきたが、ガスを多く含み、(合体末期といえど)異なる進化段階にあるULRIGが、本当にQSOに進化するのかどうかを確かめるには不十分であった。
そこで我々は、一様で大きな”1Jy ULIRG サンプル”から、観測可能な50天体に対して十分に深いKバンドの撮像観測を行い、母銀河の有効半径を見積もった。
母銀河の有効半径はSMBHの質量(M_BH)と関係があり、進化段階に鈍感であるため、ガスが晴れ上がった後のM_BHを見積もることができる。
これをQSOのM_BHと比較することで、ULIRG->QSOのシナリオが正しいのどうかを調べる。
本発表では近年のULIRGの研究の状況について紹介するとともに、我々の研究の進捗を報告する。

近傍PG QSOにおける広輝線領域の近赤外分光観測

【日時】11月24日(水) 10:30~12:00
【場所】国立天文台・三鷹 中央棟(北)1階 講義室
【発表者(敬称略)】今瀬 佳介(総研大 M2・三鷹、指導教員 : 今西 昌俊)
【タイトル】近傍PG QSOにおける広輝線領域の近赤外分光観測
活動銀河中心核(AGN)の構造は、中心領域に降着円盤を有する超巨大質量BH、その周囲に幅の広い輝線を出す広輝線領域(BLR)が存在し、それらを取り囲むようにダストトーラスによって覆われていると考えられている(AGN統一モデル:Antonucci 1993)。
特にBLRはその輝線幅がBHの質量を求めるために使われているように、AGNの中心部分を探る上で欠かすことができない領域である。
長い間主に紫外線・可視光の領域で研究がすすめられてきてはいるものの、その構造が球対称か円盤状なのかなど、現状では未だわかっていないことが多い。
一方で赤外線を用いた分光観測によるBLRの研究は、「減光の影響を受けにくい」、「低電離状態の領域を探ることができる」などのメリットを持つにもかかわらず、十分に研究がなされているとは言えない。
またBLRの物理状態を研究する上で、各波長間の比較をすることは重要である。
そこで現在我々は、近傍のPG QSOサンプルをIRTF/SpeXを用いて近赤外(K,Lバンド)分光観測することによって得られたデータから、主にPaα輝線に着目してBLRの研究を行っている。
今回の発表では現時点での進捗状況を報告し、将来の展望について述べる。